NOVEL

彼女がいても関係ない vol.1 ~新しい風が吹く前に~

 

 

 

「驚きましたよぉ。ひとみさん、城島さんとお付き合いされているなんて、全く知らなかったです」

休み明け、案の定大げさに話題にあげられたのはつい先月の話だ。

「それは初耳ね。いつからのお付き合いなの?」

「・・半年ほど前です。同期入社なので、何度か接点がありまして」

礼子に尋ねられ簡単に説明したが、暫くは礼子の機嫌が芳しくなかった。年下の女子社員が社内恋愛することを表立って非難するわけではないが、心の中では面白くはないのだろう。

ピリピリした雰囲気が2週間は部内に漂っていた。ただひとみはそれまでと変わらず仕事をきちんとこなしたし、礼子に対してもあくまでも従順に振る舞った。ひとみ自身が一歩引いたスタンスでいることことで、礼子の機嫌も次第に収まったようだ。

もっとも思惑の外れた百合子は少し不服そうにしていたけれど。

 

「さ、時間よ。行きましょう」

礼子が時計を見て促した。時計の針は12時50分を指して、昼休みの終わりを告げようとしていた。

 

 

♦トラブルの予感

 

 

 

 

 

「あ、お帰りなさ〜い」

席に戻ると電話番に残っていた三村佐智子がいつも通りのおっとりとした口調で出迎えた。少しふっくらとしたラインながら均整の取れた体型の佐智子はクルクルとした巻き毛が愛らしい印象だ。

 

「お疲れ様。変わったことはない?」

礼子にそう尋ねられ、佐智子はメモを見ながら答える。

「ん〜と、急ぎではないそうですが、田中商事の宮下様からお電話がありましたぁ」

 

「そう、ありがとう。休憩取ってきて」

「はぁい」

営業部内は日中、男性社員は基本不在がちのため、昼休憩は誰か一人が留守番をすることになっている。

営業1課のデスクでは派遣社員の三村佐智子がひとりで担当している。

一度、ひとみが替わろうかと提案したが、礼子がそんな必要はないと却下した。

「派遣さんはそのためにいるの。正社員じゃないんだから」

 

いまどき、そんな理不尽は通らないだろうとひとみは思ったが佐智子自身も気にする風ではなく、相変わらずおっとりとした口調で言ってのけた。

「全然大丈夫ですぅ。気にしないでくださぁい」

 

佐智子は癖なのか電話口に出るとき以外、少し甘ったるい話し方をする。それが余計に礼子の勘に触るようだった。

「社会人としての自覚がないのよ」だから派遣社員なのだと言わんばかりだ。そんな礼子に迎合する気はないが、逆らうのも面倒でひとみは何も言わなかった。

 

「あれ三村さん、お昼今から?」

営業先から戻ってきた課長の島坂がデスクにカバンを置きながら尋ねる。

「そうなんですぅ。お昼当番だったので」

にっこりと佐智子が答える。

 

周囲に視線を走らせた島坂は何か納得した様な顔でこう続けた。

「じゃあ、お昼一緒しない?この前の書類のお礼も兼ねて」

「えぇ悪いですぅ」

「いやいや、あのときは本当助かったよ。急ぎだったしね。遠慮しないで」

「えーそうですかぁ?じゃあ、お言葉に甘えますぅ」

 

二人のやりとりを聞きながら周囲は礼子を窺(うかが)った。礼子が同期の島坂に少なからず好意を向けていることは暗黙の了解だったからだ。

案の定、礼子は鋭い視線を二人に向けている。それに気付かぬ風で、佐智子はポーチを手に席を立つ。

「じゃあ、行ってきまぁす」

やっぱり、にっこり笑顔で佐智子は島坂と連れ添って外へと出て行った。

 

「島坂課長って、ああいうの、趣味でしたっけ?」

二人が廊下に出たのを見計らって、乃亜が口にする。

「知らないわ!さ、仕事が溜まっているわよ!」

ぶっきらぼうに言い捨てた礼子を横目に百合子が肩を竦める。

 

機嫌の悪さは終業時間まで続くだろう。

軽くため息を付くと、ひとみもパソコンを開いて中断していた作業を再開する。

部署内に文字を打つキーボードの音だけが響いていた。

 

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