「でしょう?良い方を紹介して欲しいって仰るのだけど」
「良いって人柄?」
クスクス笑いながら黒いワンピースの女性が口を挟む。
「お財布」
美佐恵が呆れたような声で説明する。
「それだけで判断されちゃあ、たまんないよね」
新城のそばでワインを口にして居た男性が呆れたように呟いた。
「ご自分の身の丈をお知りにならないと」
「そうそう、レベルが違うと大変だもの」
口々に沙耶香をからかうような声が上がる。
ヴァイオリンの音色はいつの間にか止んでいる。
沙耶香への公開裁判が余興なのだろう。
若い頃なら泣きたくもなるだろうけど。
32にもなると、こんなことで傷ついたりはしない。
確かにそんな話をしてしまった自分も悪い。
けれどいい大人のすることではない。
小学生の子どもがするようなことを愉しんでいる。
(馬鹿馬鹿しい。本当、レベルが違うわ)
沙耶香は怒りを通り越して、呆れていた。
泣き出しも怒りもしない沙耶香をみて、美佐恵が苛立ちを隠せず声を上げた。
z「あなたが入れる世界じゃないのよ。身の程を知りなさい!」
大分ワインを開けているようだ。
ツカツカと沙耶香の方へ近づいて手にしたワイングラスを傾けた。
「お客様!」
部屋係のウェイターが慌ててお絞りを差し出す。
見ると沙耶香の白い頰からブラウスに掛けて赤ワインの飛沫が飛んでいた。
「あら失礼」
美佐恵は不敵な笑みを浮かべながら見据えてくる。
悪いとは思っていないらしい。
(ああ、これが目的だったのね)