NOVEL

noblesse oblige vol.6~偶然と必然~

  • 再会への扉

 

晴れ渡った週末。

海を臨むホテルに沙耶香は居た。

 

同僚の美佐恵に誘われたのだ。

理由はいつかの夜の約束。

「縁はね、作るの。よかったら作ってあげましょうか?」

 

てっきりいつもの冗談で済ませられると思っていた。

けれど美佐恵はどういう風の吹き回しなのか。

律儀にセッティングしてくれたらしい。

 

あの時、どうして頷いてしまったのだろう。

いや、そもそもあんな話をする必要はなかった。

(きっと疲れていたせいね)

安易に提案に乗ったことを悔いても始まらない。

一度顔を立てておけば、美佐恵も気が済むだろう。

沙耶香は気乗りしない気分でため息をついた。

 

「お待たせしたかしら?」

ハイブランドの新作を履きこなした美佐恵が現れた。

傍にはディオールらしいテイストでまとめた男性。

歳のころは35くらいだろうか。

「こちら新城務さん。で、こちらがお話ししていた宮田沙耶香さん」

 

美佐恵が軽く手のひらで指し示しながら互いを紹介した。

 

「はじめまして。お目にかかれて光栄です」

新城は軽くさやかの右手を取って会釈する。

 

指にカレッジリングが光って見えた。

恐らくはオックスフォードのそれだろう。

もちろん彼の瞳が笑っていないことに沙耶香は気づいている。

けれどそのことには気付かないふりをして微笑み返した。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「はい!これで紹介はおしまい。上に行きましょう。みんなに会わせるわ」

軽く手を叩いて、美佐恵が促す。

どういう趣向かわからないままエレベーターに向かった。

 

エレベーターを降りるとそこは一面ガラス張りのフロアだった。

青く煌めく海が眼下に広がっている。