静音は大きく目を見開いた。
心臓が止まった気がした。
首の傷は致命傷になる深さだった。
意識不明のまま緊急搬送された病院で死亡が確認された。
自分が仕出かした事故の大きさに静音は立ち向かうことすらできなかった。
何も食べられず眠ることも出来ない状態が3カ月続いた後。
父の判断で名古屋へ戻ったのだった。
あの時、声をかけて救助してくれた二人の女性。
沙耶香と瑞穂のことを思い出せたのはさらに半年後のことだ。
- 取り戻せないもの
あの日から静音の足は動かない。
怪我は治ったと医師は言うけれど、まるで血の通っていない人形の足のようだ。
人形のようなのは足だけではない。
笑いを忘れた表情も何を見聞きしても揺れない心も同様だ。
ひとしきり思い返して静音は唇を噛みしめる。
微かに血が滲んでいる。
(あの時、引き返せばよかったのに)
思ってもどうにもならない言葉を何百回繰り返してきただろう。
嵐が去るように、夜が明けるように、何もかも夢だったら良いのに。
目を開けると変わらない現実がある。
朝を迎える度、繰り返される絶望と悔恨。
それでも夜は明ける。
白み始めた東の空。
ガラス越しに薄い光が差し込む中で静音は一際大きな息を吸い込んだ。
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静音だけでなく、二年経った今でもスキー場での出来事を思い返すことのある沙耶香と瑞穂はいつか再会できる予感がしていた。