NOVEL

noblesse oblige vol.2~夜の過ごし方~

「いえ、私も同じように思っていましたから」

二人は誰も残っていない廊下を無言で歩き続けた。

いつもなら、更衣室から会社を出るまで当たり障りのない話をして終わり。

 

ただ今日は違っていた。

「ね、時間あるかしら?よかったら少し付き合ってくれない?」

 

そんな会話を経て、沙耶香はこの場所にいる。

 

名古屋駅近くのタワーマンション。

最上階フロアのラウンジへ案内された。

美佐恵は家族でこのマンションに居を構えているらしい。

 

「お待たせいたしました」

グラスワインとサラダが運ばれてきた。

 

「結構、美味しいから。どうぞ」

ワインをひとくち、口にしながら美佐恵がプレートを指差した。

「戴きます。素敵なところですね」

沙耶香は思ったまま、口にする。

 

「そうね。落ち着くからよく使うの」

少し視線を泳がしてから呟くように続けた。

「仕事、やめようかと思って」

 

「え?」

唐突にそう言われて、沙耶香は視線をあげる。

 

補佐室に勤務するスタッフは22名。

その中で縁故組は7名。

いずれも会社の取引先の関係者だ。

だからといって、仕事ができないわけではない。

業務に向かない場合、他部署へ移動もあり得る。

 

美佐恵も帰国子女で語学堪能。英語と中国語に精通している。

「パパに言われて入ったけど、毎日キツイし。お給料も・・ね?」

確かに。

仕事の割に給料はさほど高くない。

年収400万円。新卒で入った頃から変わっていない。

次の誕生日で32歳だから、10年。

優雅な一人暮らしには程遠い金額だ。