「お出でなさいませ」
玄関で執事の安岡が頭を下げて二人を迎えた。
前回:noblesse oblige vol.9~動き出した運命の輪~
はじめから読む:noblesse oblige vol.1~いつもの夕暮れに~
「お久しぶり」
瑞穂が挨拶をする。
「お邪魔いたします」
沙耶香も頭を下げた。
「お待ちです」
安岡が先に立って奥の部屋へと二人を促した。
扉を開けると中庭だろうか、外に通じる窓を背に女性が座っている。
艶やかな瞳と黒髪。
(この方・・)
沙耶香が気付いたのを当然と受け止めて瑞穂が歩み寄る。
「静音さん、ご機嫌いかが?」
「お久しぶりね。瑞穂さん」
静音と呼ばれた女性が顔をあげてこちらを見た。
「沙耶香さん、かしら?」
「はい。宮田沙耶香です」
進み寄って静音の方へ右手を差し出した。
その手を軽く握って静音が二人に座るよう、促した。
2年前の冬。
北海道ですれ違った3人が今、同じ場所に居る。
沙耶香はどこかでカチリと鍵が開いた気がして居住まいを正した。
「お礼を言いたいと、ずっと思っていたの。来て下さって嬉しいわ」
静音が心からそう告げる。