「何でもありません」
抑揚のない声で静音は答えた。
主治医から「理学療法を」と勧められ、半年ほど前から来るようになった。
医師なのか理学療法士なのか、そう訪ねられ新城は「どちらの免許も持っています」とだけ答えた。
端正な顔立ち。
まだ30代半ばだろうか。
恐らくこの容貌で医師となれば、引く手数多だろう。
ほんの数時間しか会わないけれど、今の静音にとっては他に会う人もない。
それでも特に会話することもなく時間だけが過ぎていく。
時計がボーン、ボーン、といつものように6回なった時、
そのことを少し残念に思っていることに、気づいた。
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