NOVEL

家にも外にも居場所がない vol.8~嫌なことを忘れたい日~

「これで2度目よ! 2回もお見合いに失敗しただなんて良い恥さらしだわ!」

 

少なくとも1回目に関しては母にも責任があるはずです。ですがもういいです。

何もかも嫌になりました。もうここにいてはダメになる。

私は少ない荷物と仕事に必要なものだけまとめて、夜にこっそり家を出ました。行く当てなんてありません。ですが家にいたところで今の状況が良くなるとは到底思えません。

 

『親の言いなりで、自分で決められない人は不安です』

 

1人目にお付き合いした庄司さんの言葉が甦ります。あの時にもっと気付くべきでした。

初めは自分で決めているつもりでした。ただ庄司さんにはそう見えるだけで、私は自分で考えていると。親の言われたことでも自分で考えて、自分で判断して行動していると。

 

でもそれは違いました。本当は親に逆らうのが怖くて、ただ言いなりになっていただけだったんです。親に怒られるのが嫌だったから諦めと妥協で決めていたに過ぎなかった。

母に逆らうという選択肢が頭になかったのです。心のどこかで親のいう事は聞かないといけない、絶対に守らないといけない、そう思い込んでいたのです。

 

でも今回のことでよく分かりました。あの親のいう事を聞いていたらどんどん悪い方向へ流れていく。

もうあんな親のいう事は聞けません。

私は職場の近くにホテルをとって、しばらくそこで過ごすことにしました。翌日以降母から電話などが来ましたが、全て無視しました。心身ともに疲れ切っていた私は仕事をする気力もなく、今回の事を職場の上司に相談しました。

 

「そうか……それは辛かっただろう。少しの間、休養を取るといい。長いこと休みは出せないが、数日なら問題ない」

と、気を利かせてくれました。少しの間ですが、私は親も仕事も忘れて自由でいられる時間を手に入れたのです。

 

人生で初めてかもしれません。何も考えずにいられる時間を手にしたのは。

 

翌日、私は今まで行ってみたかった場所に行くことにしました。今までのデートの間に見掛けた良さそうなお店や、ネットで調べた有名なお店を回ることにしたのです。

特に気になっていたのが名古屋駅から少し離れたノコスアレタージュというお店でした。シンプルな外観のお洒落なカフェで、一度来てみたいと思っていたのです。

手作りのケーキが魅力的で、丁寧に作られた多彩なスイーツはまるで彫刻のような、芸術のような繊細さでした。味も濃厚でセットのコーヒーとの味わいは深く、とても気分が安らぎました。

そのまま駅周辺を回って、気になるお店を覗いたり、映画を見たり、自由な休日を堪能しました。