子供たちに迷惑をかけるような事が無ければ、それだけで良いと腹を括った。
その時だった。
「ノンさぁ、大阪に子供居るんやでぇ。会わして貰えんけどな」
ノンちゃんの口からまさかのワードが飛び出し、リナが焦る。
もしその後、子供は居るのか?と問われたら、嘘をつくことになる。
リナはノンちゃんの右隣に座った老人のグラスが減っているのを見て、ワインを注ぎ会話に参加しないようにした。
「16歳の時に産んだんやけど、置いてきちゃった」
リナの手が震える。
若くして母親になったからといって、そんな簡単に言える神経が解らない。
思わず客であるノンちゃんを批判しそうになる自分を抑え「どうされてるんですか?」とだけ付け加えながら、左側に座ってノンちゃんを優しく見守る老人のグラスにもワインを注いだ。
「そんなん知らんよ。親が面倒見てるんちゃう」
さっきまでの鋭利さはなく、声のトーンも下がっている。
その時、ノンちゃんと視線が合った。
『言われる!!』
リナは覆わず身構えたが、ノンちゃんはニッコリ笑っただけだった。
「ねぇ。お姉さん。連絡先交換しよか?」
「へ…??」
リナは間抜けな声を漏らした。
意表を突くにも程がある。ノンちゃんが何を言いたいのか、全く理解が出来ない。
ホステスにケチをつける女で、誰もノンちゃんの相手をしたがらない雰囲気を感じた後に聞く様な言葉ではないが、両隣の老人たちが喜んで『良かったなぁ。交換したらいい。』とここぞとばかりに捲し立てて来た。
「あの、私…お客様と連絡先は交換してなくて」
「なんで?ノン、お姉さんの事をもっと知りたいんやけど」
そんな会話を続けていると、やっとママが席に駆け込んで来て、その会話を中断させてくれた。
しょーこママの登場により、ノンちゃんは一気にテンションを上げて「ママに会いたかってん!」とすり寄っていく。