リナに興味を示すノンちゃんは、レイラを嫌いだと言い放つ。
互いの目的も知らずに、不穏な空気だけがラウンジに漂い始めた。
何を守る為に夜に花は咲くのか?
リナとレイラの間に、新たな火種が植えられる。
はじめから読む▶【錦の女】vol.1~「リナ」という名まえ~
自分の事を『ノン』と言う彼女は、まだ23歳だと言う。
連れている老人客たちにも敬語を使う事はなく、リナの動きを観察するようにカラコンで大きくした瞳を通して見つめてくる。
レイラに貰ったドレスを自分の物だったと言ったノンちゃんは、リナの返答には全く興味がないようだった。
関西弁を悠長に話すノンちゃんは、誰がどう見ても関西から来たようだったがその事には触れずに、レイラにドレスを汚されたからあげた物だとリナに伝えた。
「レイラみたいな女がいっちゃん嫌いやねん!」
と、声を張るノンちゃんに誰も何も言えない苦痛のワンマンショーがスタートしていた。
「お姉さん、レイラと仲いいの?」
そんな事を問われても、同じ店のホステスを悪くいうわけにはいかないが、ノンちゃんの観察眼は凄まじく「嫌いでしょ?顔に書いてあるわ」と自己完結させてしまった。
流石に何も答えない訳にもいかず、リナが「どうしてそう思うんですか?」と聞き返す。
「だって、お姉さん全然夜の女っぽくないやん。お嬢やろ?」
ノンちゃんは人の目をしっかりと見て話してくる。
有無を言わせない圧があった。
「どこまでをお嬢と言うのか解らないですけど、世間知らずなのは認めます。
働きだしたのはここが初めてで、それも30超えてからだったんで」
ノンちゃんに対して上辺の言葉は通用しないだろうと考え、本当の事だけを摘まんで話す。
この若さでこの迫力だ!
身に着けているブランド品の数々を見ても、臆してしまう。
経験値が違いすぎて、渡り歩ける気がしない。
だから、リナは客相手に滅多に話さない事を話した。
生きてきた人生が違うからこそ、同調できない事を敢えて合わせる事はない。
しかし、事実を全て話す必要もない。そこに嘘が無ければ、ノンちゃんに見破られる事はないと信じるしかなかった。
「それ、凄くね?30超えるまで仕事したことないとか、マジでうらやまやん!」
ケタケタと下品に笑うノンちゃんは、機嫌よくワインを飲んでいる。
ノンちゃんを見守るように両隣に居る老人たちは、何が楽しいのかにこやかに座っているだけだった。
まさにノンちゃんの独壇場だ。
機嫌よく飲んでくれているならそれでいい。
自分が着ているドレスがレイラからのお古だとバレたとしても、もうそんな狡(こす)いプライドはリナには無かった。