「失礼します。リナです。お飲み物はどちらにされますか?」
ノンちゃんの席にはキープボトルがなかった。
今日来ている老人たちは、知り合いのキープボトルを持ってこいなどと好き勝手言っている。
似たような小さい老人2人は、左右に座しているが、位置が変わったら解らないくらいに容姿が似ている。
でも明らかなのは、どちらも『ノンちゃん』の本命ではない事だけだ。
「ノン、焼酎きらいやから、ワイン頼んでええ?」
ボトルを入れずに飲み切りを頼む。
それはそれで有難いことだが、それよりも決して甘えているようには聞こえないのにノンちゃんの関西弁には愛らしさがある。
「そうしよっか!」
さっきまで、やれあいつのボトルでいいだの好き勝手言っていた老人たちは、ノンちゃんの一声に承諾してしまった。
彼女は何者なのか?不思議で仕方がない。
「ねぇ、お姉さん何歳?」
「私は、25歳です」
「絶対嘘やろ?ノンにはそういうの通じんからな。つまらん事せんといて」
怒っている訳ではないだろうが、口調が鋭利な刃物のようだ。
ここで返答を間違えたら、きっとリナに対しても平気な顔して『チェンジ』と言ってくるのだろうと想像はできる。
「店では25です。…30…超えてるんで、そう言わせて貰っています」
リナはラウンジで初めて年齢を自ら告げた。
「へぇ~?見えんなぁ。でさぁ、その服どうしたん?それ、たぶんノンのやつねんけど!」
「‥‥え‥‥?」
予想していなかった言葉に、返答が出来ない。
これは…レイラから貰ったドレスだ!
まだレイラは出勤していない。
それに、レイラのお古を着ている事は誰も知らない。
リナが返答に困っていると、ノンちゃんの方が矢継ぎ早に語りかけてくる。
「それ、レイラに貰ったんちゃうの?おねぇさん、何やおもろいなぁ。普通あんな女のお下がりとか着たくないやろ!」
ノンちゃんの声がラウンジに響き渡った。
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関西弁を話す『ノン』と言う女はリナを気に入ったらしく、翌日も【RedROSE】の開店と同時に一人で姿を現し、リナへ席に着くよう言い放った。