『生活をする為にお金を稼ぐ』
それだけしか、考えていなかったからだ。
でも、気付いたからにはある程度の知識を持って、自分なりに動いていかなければならない。
レイラは同伴で遅くなる連絡があり、店には居なかった。
取り巻き達も今日は出勤ではない。
古参のホステスたちはあからさまにボーイの川内君から視線を逸らし、『あの席には行きたくない』という姿勢をとっている。
川内君が困った顔をしながら、リナの方に向かってきた。
「リナさん。お願いできますか?」
ボーイは『お願いします』とは言っても『できますか?』という言い方を、普段はしない。
隣に座っていた客がリナの顔を見て、哀れんでいるようにさえ見えた。
「ちょっと、かわうっちゃん。そりゃないよ。リナちゃんに頼んであげたボトルがまだ半分残っているのに…」
目の前にいる客が同情を含めた笑いを浮かべながら肩を持ってくれたが、このままでは埒があかないのだろう。
今店に居るホステスたちの雰囲気で解る。
ママはカウンターで、一人で飲んでいる客と話し込んでいた。
ノンちゃんを気にしているようだが、話を切り上げるチャンスがないようだった。
「田中さん!すみません…本当に美味しかったです。だから他の女の子にも飲ませてあげて下さい!」
リナがそう声を掛けると、田中は渋々とソファーに身をゆだね『今度来たときは、白ワインにしような』と微笑みかけてくれる。
リナの顧客ではなくても、店に通い続けてくれている客たちは、リナが店の為に変わっていこうと努力している姿を評価してくれていた。
「有難うございます!」
リナが心からの感謝を告げると、今日初めて来てくれた隣の客が「俺もまた来るね。リナちゃんの居る日に」と声を掛けてくれた。
それがお愛想であっても、素直に嬉しい。
リナがノンちゃん率いる2人の老人の席に紹介された時、老人たちはただニコニコしていたが、ノンちゃんには下から上までを値踏みされた。
茶色いカラコンのせいで、瞳が大きく無機質な目で嘗め回されながら席に着く。