【RedROSE】の客に相応しくないと言うのは失礼だと思いつつ、リナも席についている客と共に入り口の方に視線を送った。
金髪に近い茶髪のロングヘアはストレートパーマをあてているようにサラサラで、丸顔で少し色黒。
顔立ちははっきりしているが、美人とは言えない…。
なのに、身に着けているものは全てが高そうで、乱暴に扱っているバッグはバーキンだった!
リナが見てもすぐに解る高級ブランドHermèsの有名バックを持っている彼女は、どこかの令嬢のような上品さは全くない。
「ママ~来ちゃった!!」
連れている年配の男性客は彼女の配下のように後ろに居て、我が物顔で店内を歩く彼女は他の店のアフターに来ているホステスには見えなかった。
リナの席の客たちは彼女から視線を逸らしている。
知り合いなのか、それとも関わり合いたくないタイプなのかリナは同席の客たちに視線を戻した。
「ノンちゃんだよ…」
隣に座る、30代半ばの接待に連れてこられた客が呟く。
「お知合いですか?」
リナがそれとなく小声でたずねると、苦笑いを浮かべながら小声で説明してくれた。
自分の事を『ノン』と名乗る彼女は、近隣のキャバクラ嬢だったらしい。
そこでどこかの社長の愛人になり、店を辞めて夜の街を遊び歩いている有名な女性だと言う。
いろんな店に顔を出して、店の女性が少しでも気に入らない事をすれば文句を言いだすので、中には彼女が姿を見せると帰る客も居るらしい。
「そんなに有名な方なんですね」
少なくとも、リナが入店してから【RedROSE】では初めて見る顔だ。
すると、目の前に座っている常連客の田中が身を乗り出してきた。
「ここにも来たことはあるけど、ほら…あのママだからさぁ、ノンちゃんもそんなには来なかったけど、レイラちゃんが来たから…ねぇ」
「レイラさんが何か?」
「ノンちゃんと同じ店に居たんだよ。仲良しには見えなかったけどね」
夜の街にもそれなりに勢力争いがあり、この世界の政治的なものもある。
今までリナは、そういう部分には触れてこなかった。