老舗のラウンジに訪れた奇妙な女性客。
夜の街を生き抜く為に、くだらないプライドを捨てたリナに大きな転機が訪れる。
一筋縄ではいかない夜の世界に降り立つのは、天使か魔女か…それとも?
はじめから読む▶【錦の女】vol.1~「リナ」という名まえ~
ラウンジにて本気で稼ごうと思うホステスは、顧客が入れているボトルではなく自分の為に別のドリンクを頼んでもらい、シャンパンやワインの飲み切りボトルを入れてもらう。
席に居たホステスにバックがつくからだ。
その事はリナも知っていたし、たまたま同席についた他のホステスのファインプレーでおこぼれに預かる事は今までにもあった。
それに、店の古参の客が記念日などに開けてくれる事もあるが、リナから率先して営業することは今までしてこなかった。
同伴するのが一番確実なのだが、子持ちのリナにはハードルが高い。
何よりもしょーこママは、同伴を無理強いすることはなく『お客様には店の中で楽しんでいただくのが私たちの仕事』とよく言う。
若い子たちが同伴を主流にする中で、リナよりも古いホステスたちがあまりしないのにはそういう理由もあるのだろう。
店外でお金を使わせて店に来るよりも、店に呼んで店でその分使わせた方が良い。
自分の為だけでなく、店の事を考えるならば。
顧客だろうがそうでなかろうが、自分が席についている時に飲み切りボトルを入れてもらう事からリナは始めた。
顔なじみの客からは『リナちゃんが言うのは珍しいなぁ』と笑いながらも、店が好きで、ママが好きで通ってくれている客たちは開けてくれる。
やってみたら案外簡単な事だった…。
しなかったのは、自分には出来ないと決めつけていたからなのだと気付き
『私の覚悟はダサい』と反省する。
リナ自身は酒に強い方でもない。
飲み切れもしないのに…という気持ちはあったが、飲み切りボトルが入ると飲める女の子をボーイの川内君が席につけてくれる。
こうやって、夜の店は回っていくのだとリナは勤め始めて1年も経つのに、何も見えていなかった事に気づかされる日々が続いた。
その日は、レイラに貰った黒いロングドレスを着ていた。
入り口の方から聞いたことのない女性の騒ぎ声に気付き、席での会話が止まった。
ラウンジ【RedROSE】にはたまに女性客も来るが、それは会社の二次会だったり、他の店のママが客と一緒に顔を出すのだが、今回はそういう感じではなかった。
「ねぇ、レイラは~~!!!」
まだ若そうに聞こえるが、酒焼けしている声。