諸々の事を考えれば、良い夫だったと思う。
それを、当たり前だと勘違いした愚か者は玲子の方だった。
「お母さん大丈夫?ラウンジには出勤するの?」
早めの夕食を食べながら奈緒が玲子の様子をうかがう。
できれば、今日一日一緒にいいて欲しいと思っているのだろう。
それでも…。
「ラウンジは休めないのよ。当日欠勤すると罰金だから。ごめんね…」
それだけではない。
昨日の今日で休んだら、まさにそれはレイラへの敗北を認めたようになる。
玲子にとっての社会的居場所は【RedROSE】のリナしかない。
それを奪われてしまったら、幼い裕也と路頭に迷い…、奈緒を奪われてしまう。
「ねぇ、お母さん。あんまりさぁ、無理しすぎないでね」
奈緒はそう告げると紙袋をテーブルの上に置いた。
「これ、学校の園芸部の人に貰ったの」
袋の中から数本の黄色いパンジーを出した。
「花言葉は『つつましい幸せ』
あの置きっぱなしの花瓶に飾ろうと思って。別に花屋で買うこともないから、ちゃんと前みたいに花を飾ろう。」
玲子にとって一番きれいな花は、奈緒の笑顔だ。
この子がいれば大丈夫と思える気持ちと、自分のもとでこの子は本当に幸せなのか?という真逆の思考が常にシーソーのように動いている。
「ありがとう。奈緒!」
玲子は奈緒の手をぎゅっと握り締めた。
奈緒はその手に裕也の手に重ねる。
3人で生きて行こうと誓うように。
玲子がいつものように、少し早めにラウンジ【RedROSE】に出勤すると、何故か既にレイラがカウンターに座っていた。
川内君の手伝いをするわけでもなく、ただ座っている。
ママはまだ来ていないようだった。
「おはようございます。リナさん」
「おはよう」