『お預けは、男女関係において大切なスパイスだよ!』
そういったのは…誰だったか?
自称投資家の、ユウが派手なジェスチャーをしながらそう言っていた気がする。
「確かに、その通りね。」
今までは、莉子がそれを無意識の内にやっていたのだ。
それをされている今の莉子は、あながちそんな莉子に溺れていった男達のようなものなのかもしれない。
それでも良いと割り切ってくれる男だけが、パートナーになれる。莉子は、昭人の良きパートナーとなれるのか?
莉子は、昭人の唇を拭ったハンカチを自分の唇に押し当てた。
金曜の夜に、昭人から『明日の朝8時にマンションに車で迎えに行くけどいいかな?』というLINEが届き、莉子も『はい!』というスタンプを送り返す。
昭人から『ワクワク』というスタンプが返される。
あんなにスマートな紳士が、スタンプを使う。微笑ましいと感じる。
翌日の準備をしている途中で、ビジネスフォンが鳴った。表示画面には『ケイ』と出ていた。出張族のパートナーだ。
莉子は渋々とだったが、嬉しそうな声色に変えて、「お久しぶり」と電話を取る。明日からこっちに出張が決まったのだが、夜に会えないか?との事だった。
正直ケイは、一度が大きい。
ユウだったら断っても、問題ない相手だが、ケイは最近出張が減ったので余計一度が大きいパートナーではあった。
でも、莉子の中で迷う気持ちは微塵もなかった。
「ごめんなさい。仕事が立て込んでいて…」
そんなの、見え透いた嘘だ。
ケイにも察しはつくだろう。
これが、莉子からの終わりの合図だと悟ったように、簡単な挨拶とまたの機会にと告げられ、電話が切れた。
莉子が苦笑いを浮かべた。
「我ながら、らしくないなぁ…」
翌朝8時。
マンション前に、新車のように綺麗な黒い外車が停まる。昭人が莉子をエスコートし、助手席に乗り込んだ。
車内は整頓されていて、モノトーンだった。そこに、小枝子の形跡は全く見えない。莉子は別荘に行くと言われていたので、カジュアルでシンプルな装いにした。昭人も濃紺のポロシャツで、爽やかな装いだった。
互いにリンクできる。
昭人の助手席にふさわしいのは、小枝子じゃない!
莉子の征服感が、MAXに達した瞬間だった。
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言の葉は嘘で紡がれる、迷い道。『恋』に微睡み、流され、唇の動きを見失う時。現実から真実は果てしなく遠く…。偽る道へと、莉子を誘う…。