NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.10

この男は、小枝子のような開けっぴろげな女は抱かない。

最初からアンバランスさを感じていたのに、そこを見抜けなかったのは、莉子の初黒星だ。

でも、これ以上は莉子のプライドが許さなかった。

 

 

「何を…」

 

 

まだ、白を切り続けるなら、もう終わりだ。

 

その綺麗な口元を、歪ませて失望させないで欲しい。莉子は視線を逸らし、帰りの用意をするために、部屋に戻る。

タクシーを呼ぼうか、そんなことを考えていた時だった。

昭人が勢いよく、莉子を後ろから抱きしめた。

 

「違う。好きだ!本当に…好きになってしまった。出会いは、間違えたと思う。小枝子から…刺激的なゲームをしないかと言われた時は、はっきり言って…こんな気持ちになるなんて思わなかった…。だけど!!」

 

―あ~あ…ダサい。―

 

莉子は、昭人の手をゆっくりと引き離した。

 

「素敵なひと時を有難う。楽しかったです。でも、需要と供給がかみ合わないと、ビジネスって成立しないじゃないですか?」

 

莉子の存在価値は、ビジネスと直結している。

ゲームの材料にされるなんて、真っ平ごめんだった。

 

 

『恋』のゲームはあっけなく幕を閉じた。

どうしても送ると強く言い張る昭人を振り払うように、コテージを出てからよくわからない道を一人で歩いていた。

 

夜空の星は綺麗だった。

莉子は、小枝子に電話を掛けた。

 

「ねぇ、小枝子?…それなりに楽しかったよ。随分と手の込んだ仕掛けまで…本当に、飽きないね。でも、簡単すぎて…拍子抜けだった。」

 

 

満天の星空のようにアレンジした、莉子のネイルに雫が流れていく。

雨なんて降っていないのに…。

 

『恋』は、流れ星のようにあっという間に消え去る。

 

あと腐れもなく。

 

―でも…まぁ、今までの男の中では、一番の…男だったよ。―

 

これは、小枝子には言わない。

星を見上げながら、他愛もない話をして、わざと口を歪めて、内股に歩く。

 

雁字搦めにされた、『悪女』という道は、きっと、どこまでも…続いていく。

だから、今だけはせめて、「その方が良い」と、最高だった男が残した女でありたかった。

 

 

―嘘つきで、憎らしい…美しい口元。初恋の終わりは…しょっぱい秋の気配がした。―

 

 

 END

 

 

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