言の葉は嘘で紡がれる、迷い道。
『恋』に微睡み、流され、唇の動きを見失う時。
現実から真実は果てしなく遠く…。偽る道へと、莉子を誘う…。
前回:悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.9
昭人の運転は丁寧で、二人の初ドライブは非の打ちどころもない。
途中のインターで軽食を買って、互いの物を分け合い、学生時代にも経験したことのない新鮮さを味わう。
大人な部分と、子供っぽい部分の両方を持ち合わせて居る素顔。
たまにクシャっと表情を崩した口元さえも、愛おしい。
約2時間のドライブをして、ペンションにつく前に、ヨーロピアンな門構えの洋食屋で昼食をとった。
本心では、早く二人きりになりたい。
でも、急いてはならない。
「此処のハンバーグが美味しいんだ。」
と微笑みかける昭人の口元を、今すぐにでも塞ぎたい衝動を抑える。
洋食屋のシェフが挨拶に来るほど、昭人はこの店の常連のようだった。
莉子は、優越感に浸っていた。
隠したい存在の女ではないと、確信を持てるからだ。
「どうぞ、ごゆっくり。綺麗な彼女さんですね。」
そう告げると奥に戻っていった。
昭人は照れ笑いを浮かべていた。
莉子は、罪悪感を覚える。
―こんなことをしていて、大丈夫なのだろうか?―
昭人は、そんな莉子の手を握ってくれた。
相変わらず、何を考えているのか解らない、閉じられた唇だ。
―こじ開けたい…その口をこじ開けて…知りたい。―
莉子は、少し疲れたから別荘に行きたいと、昭人に告げた。
そうではない。一秒でも早く、密室に二人きりになりたい衝動が止められなかったのだ。
舗装された山道の途中には、間隔を置いてコテージが並んでいた。その中でも、一番敷地が広めのコテージの前に車を停める。