お店の方と話している様子を見ると、坂本さんは何度も来たことがあるようだ。こんなに良いお店を知っているなんて、さぞかしお金を持っているのだろう。
坂本さんの後を追いながら席に着くと、既にコース料理を予約してくれているようだった。「飲み物だけ、好きなもの選んでください」と言って渡されるメニュー表。全く知らない名前のワインが並べられている。
「赤ワインで、坂本さんのおすすめをお願いしても良いですか?」
坂本さんは車だからお酒を飲まないが、私は坂本さんのお酒の好みが気になった。だからあえて「おすすめ」で頼んでみることにした。
「実は僕、お酒飲めないんです。お店の方に聞いてみますね」
私の言葉に一瞬驚いたような顔をした坂本さんだったが、すぐに微笑んでお店の方を呼んでくれた。そして私のお酒の好みを聞きながら、お店のおすすめだというワインを持ってきてもらった。
そして、飲み物が運ばれてきてからの時間はあっという間だった。前菜、スープ、メイン、デザート…運ばれてきた料理はどれも美味しく、あっという間に目の前の皿から料理はなくなっていった。
坂本さんと何を話したか全く覚えていない。だけど、この料理の味は頭に残った。
コース料理の全てを食べ終わると「お会計してくるので、少し待っていてください」と席を立つ坂本さん。当たり前のように奢ってくれる姿に、少しだけ惹かれる。だけど、この気持ちは美味しい料理を食べたからだ。
今、私の胃袋が幸せで満ち溢れているから、何でもよく見えてしまうのだ。
そう自分に言い聞かせながら会計を済ませる坂本さんを遠くから見つめる。このときの坂本さんへの好意は、お金が見せてくれた魔法だと思い込んでいた。
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