NOVEL

婚活物語〜ハイスペ男と結婚したい―vol.7~理想と程遠い相手~

本当は「付き合う気はないです」とでも言って断りたかったが、今後のことも考えて丁寧な振り方をしたつもりだ。だけど、坂本さんには私にその気がないことが伝わっていないようだ。

 

「また会ってください。松村さんが行きたいところはどこでも連れていくので」

 

次のデートの約束を取り付けようとする坂本さん。本来なら「予定がわからない」とでも言って帰るはずだ。だけど「どこでも」という言葉に私は引っかかった。

 

「じゃあ、坂本さんが知っている中で一番おすすめのレストランに連れて行ってください」

 

 

坂本さんと別れて、阿部さんに顔合わせの報告をする。「次に会う約束をしました」と。これまで2回目のデートが実現していなかった私が、ようやく次に会う約束を取り付けたことに阿部さんは驚いていた。

 

だけど、私が坂本さんに再度会う理由は結婚したいと思っているからではない。ただ、良いレストランに連れて行ってもらいたいだけ。こんなこと、阿部さんには口が裂けても言えない。

 

「坂本様は他の女性からも人気がある方なんですよ。良かったら前向きに考えてくださいね」

 

阿部さんに言われたが、私は前向きに考える気などない。私が求めているハイスペ男に、坂本さんは程遠い。だけど、次に会ってレストランに連れて行ってもらうのだけは楽しみだった。

 

そして迎えた2回目のデート。坂本さんは私の家の近くまで車で迎えに来てくれた。近くに停まった車を見て、高級車だということが車に詳しくない私でもわかった。

 

「お待たせしました」

 

助手席に座って坂本さんを見ると、見るからに高そうな服を着ている。私自身も高級なレストランに連れて行ってもらえることを予想し、少し高めのワンピースを着てきた。

 

「今日は、家族でよく行ったイタリアンのお店を紹介します」

 

そう言って坂本さんは車を走らせる。20分ほど車を走らせると、到着したのは名古屋駅付近。そして大通りから路地裏に入ると、おしゃれな外観をしたお店が見えてきた。

 

「ここです。ちょっと車を停めてくるので待っていてくださいね」

 

そしてお店の前で私を降ろすと、坂本さんは駐車場の方へと走り去っていった。

 

5分ほどして、駐車場の方から坂本さんが走ってきた。「お待たせしました、早速行きましょうか」と私を先導してお店のドアを開けながら中へと誘導する。

 

中に入ると「いらっしゃいませ」とお店の方が一斉にこっちを見てお辞儀してくる。挨拶だけでも、高級店であることがすぐにわかった。

 

「坂本様、いつもありがとうございます」