妙にすっきりとした室内が気にかかる。いつもより、物が少ないように感じるのは気のせいだろうか? テーブルの上も、食事が用意されていないどころか、何も乗っておらず綺麗すぎて……。
何も? いや、そこには封筒が置いてあった。
近付いて見てみる。綺麗な封筒だった。真っ白で、表に『裕司へ』と書いてある。裏を見ると、『加奈恵』と、妻の名が署名されていた。
中身を検(あらた)めてみる。そこには、加奈恵の字でつらつらと文章が並べられていた。
『私は、春樹を連れて出て行くことにしました。……』
「は?」
裕司は信じられないといった声を上げた。
出て行く? 何でまた。何かあったのか? しかし、裕司が手紙を読み進めていくにつれ、加奈恵は、その原因は裕司にあると言っていることが判明した。裕司の顔がみるみる赤く染まっていく。
裕司はすぐにスマホを取り出した。登録していた加奈恵の電話番号にかける。……繋がらない。
(あいつ、ふざけるなよ!)
加奈恵の番号に何度もかけるが、やはりスマホは無機質な機械音を立てるばかりだった。春樹の電話番号にもかけるが、やはり出ない。
怒りのまま、スマホを床に叩きつけそうになったところで気が付いた。
――そうだ。義両親の家は? あいつ、実家に逃げているのかもしれない。
すぐにかけようとしたが、番号を思い出せなかった。なんせ登録していないのだ。連絡はいつも加奈恵に任せていたし、自分からはどうせ必要無いとしか思っていなかった。
結局、番号を探し当てたのはそれからだいぶ後のことだった。義両親の携帯番号を知らず、家の固定電話にかける。何度かコールすると、義父が出た。