春樹は、久し振りに会うおばあちゃんやおじいちゃんを見て、照れ臭そうとも困ったともとれる笑いを見せていたが、暫くしてほっとしたように息を吐いた。
「……少し、安心した」
独り言のようなその言葉に、加奈恵はハッとした。
父親と一緒にいることで安心できない環境になっていただなんて、健全とは言い難い……。この子は、ずっと気を張っていたんだわ。
加奈恵は、春樹のために、裕司とのことも今後のことも頑張ろうとより強く思ったのだった。
***
一方、その頃。
裕司は突然のことに驚いていた。
――いや、怒っていた。
(何だ、これは……? どういうことだ?)
裕司がいつも通り仕事から帰ってくると、家の電気が点いていなかった。外出? それとも、寝ているのか? いずれにせよ、家主が帰ってきたというのにとんでもない不躾な奴らだ。
「おい、帰ったぞ!」
玄関で声を出し、ドスドスと足音を立てながら廊下を抜ける。電気を点け、部屋の中を見た。
……誰もいなかった。
(何だ、夕食の支度もしてないじゃないか! 加奈恵の奴……)
裕司は怒り心頭に発し、ネクタイを緩めながらリビングに入った。この時点で裕司の頭の中には、まさか加奈恵が出て行ったなんていうことは浮かびもしていなかった。