息子を守るためにも夫・裕司と別居をすることに決めた妻・加奈恵。
とうとう家を出る日がやってきて・・・
「お母さん……。本当に大丈夫?」
「ええ、春樹は心配しないで」
弁護士に相談をした翌日、決心を固めた加奈恵は、裕司に分からないように徐々に私物を整理していった。
別居後は、地下鉄一社駅付近にある実家に身を寄せるつもりでいた。だから、両親に事情を話し、加奈恵の化粧品や服、春樹の勉強道具などを少しずつ運んで行った。
さすがにバレてしまうのではないかとも思ったが、裕司は少しも気付かなかった。それは裕司の、こちらへの関心の無さとも取れて、それが加奈恵には余計に悲しいことだった。
春樹にも事情を話したが、ひいき目に見なくても賢い子だからか、春樹も何も悟られないように行動しているようだった。
そして、とうとうその日。学校から帰ってきた春樹を連れて、急いで外に出る。荷物は既に送ってあった。
実家に着くと、両親ともに歓迎してくれた。裕司は加奈恵が両親に連絡を取ることもあまり良しとせず、更に結婚してから実家に顔を出すこともめったに無かった。そのため、両親は加奈恵のことを心配していたと言い、特に母親は、玄関先に現れた加奈恵を見るなり、加奈恵を思い切り抱き締めてくれた。
「本当に、良かったわ。あなたに何もなくて良かった……。そんな風に辛い思いをして過ごしていたなんて、少しも気付かなくて、ごめんなさいね」
「裕司君のことは残念だが、お前と春樹が元気ならそれでいいよ」
父親もそう言いながら、加奈恵と春樹を見て微笑んでくれた。