「大変だったわね」
2課の山下課長が、労いの言葉とは裏腹に、無表情に近づいてきた。私よりも年次は上で当時の最年少課長就任を果たした女性課長だ。マネジメント能力も優秀で、メンバーの個性を把握して状況を予測する。事前準備と状況の想定に基盤を置いた手法は、非常に安定している。手には契約企業の状況をまとめたファイルを抱えており、とても私に話しかけている暇などなさそうだが。
「何か力になれることがあったら言ってね」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「そう」
山下は踵を返して自分のデスクへと戻っていった。同じ部に属する課長という立場の人間を労っておくことは、業務上の立ち回りとしては必須とも思える。ほぼ定型文化した社交辞令に過ぎず、本来は競い合うべきライバルだ。私からの返答も、自ずと定型文化していく。
チョコレート菓子を半分ほど食べ終わる。今回の件について改めて考えてみると、タイミングとそれが及ぼす私への影響に動揺はしたが、対応の仕方は他の件と変わらないのではないか。結局は、一つの案件が何かの要因によって途切れかけているだけだ。自分の中の定型を探し、次の方法を考える。私は米田の電話番号を押した。
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