出国したらもう数年は戻れないから、帰国してもあの花屋にノアさんはいないかもしれない。これで本当にお別れになるのだと胸が急に締め付けられた。
タクシーに乗り空港へと告げる。
スマホを開くと、あの微妙な着物姿のまま更新が止まったインスタをじっと見つめた。
日々、インフルエンサーは生まれては消え、人々はその度に流れていく。
流行は花のように移り行くのだ、もう“いいね”の通知はすっかり止まってしまった。
とある決意を胸にボタンを押そうとした瞬間、私はペンタスの花を調べてみようと思った。
あのピンク色の花になんであんなに初めから彼と同じように惹かれたんだろう。
私の目にはとある言葉が飛び込んできた。それは彼と出会った絶望した夜に見つけた光のような気がした。
私は意を決して、一息にインスタグラマーのアカウントを削除した。
そして一枚だけ残していた、あの日撮っていたアートアクアリウムのノアさんの後ろ姿も一緒に、削除した。
空港に到着し、私は運転手に礼を告げると手元に残していたルブタンのヒールを大きく鳴らしつつ、出発口にスーツケースを引き歩いていく。
ペンタスの花言葉は”希望が叶う”
「この世はお金」、何もかも全て買える。
私は、ずっと今までそう思っていた。
けれどあの花屋のノアさんと出会って、インスタではない生身のあの人と話すことで決してお金だけで買えないものを、私は手に入れた。
そっと、ドライフラワーのペンタスをぎゅっと抱きしめる。
ほら、私は大切なものを確かに手に入れた。
―第一章 The End―
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「ルピナス―芽吹く街角で 第二章」スタート。
佐々木夏蓮、28歳、外資系OL。休日は婚活パーティに出かけも理想の男性は見つからず。そんな中、偶然、花屋「ルピナス」で働く幼馴染のノアを見つける。