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手術室へ入ると、すぐ麻酔のマスクを掛けられた。
「補助心臓装置すでに用意できました」
「ドナーさんの心臓すぐに届く予定です」
「血液型など問題は検査ではなしです。」
「このタイミングでドナーが見つかるなんて、奇跡に近いぞ」
薄れゆく意識の中で、そんな会話が俺の耳に届いてきた。
そして音も光も、全て真っ暗に消えた。
酷く身体が寒い、何度も経験してきた手術後の感覚。指先が凍っているみたい。
意識が朦朧として
「時…生…っ!」
という誰かの声が残響みたいに響く。
そのままICUに運ばれ、無菌室状態で数ヶ月過ごすことになる。
どうやら心臓は適合したらしく、今のところ拒否反応もなく正常に動いているらしい。
僕の胸には何度も開かれたIの大きな傷がまたできたが、これがきっと最後になるのかな?
担当した医者に話を聞いた両親は大粒の涙を流していた。
誰かの心臓が、僕の命を確かに繋いだのだ。
外は既に空が明るみ、長い夜が終わろうとしていた。しかし僕はまたふっと浅い眠りについた。
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法医学医を目指していた兄を亡くした妹・蘭、その心臓で生き長らえた青年・時生、真実を知った彼らは…?