NOVEL

Insomnia Memories vol.3~実はセレブ嬢のヒロインと、ITハイスペ社長の夜眠れない理由とは?~

 

いつも私は何もできないの、パパとママに怒られるの

 

そんなことないよ、蘭は頑張り屋さんじゃないか

 

バレエのコンテストでも優勝できなかったの

 

優勝だけが全てじゃないよ、俺はちゃんと見てたよ

 

ねえ、私、ちゃんといい大人になれるかな?

 

大丈夫、蘭は踊ることが好き?

 

うん、大好き!

 

だったら踊っていて。俺は蘭の踊る姿を見るのが好きだよ

いつだって、見ているからね。

 

 

目を覚ますと私は、大粒の涙を流していた。

 

 

ああ、またこの夢だ。

私は勢いよく起き上がると、浴室に向かう。腫れ上がった目を見るのが嫌で服を脱ぎ捨てるとシャワーを勢いよく開く。お湯が全身を流していく。

排水溝に流れてゆく透明な水だけをじっと見つめていた。

 

 

 

名古屋市内、ヒルトンのパーティ会場では、IT企業の代表者が集う親睦会という商談が開かれていた。

アルマーニのスーツに身を包んだ初老の男性が賑やかな場の中で、誰かを呼び寄せる。縁なしメガネを掛け長い髪の毛をオールバックにしたクールな顔立ちの男性がやってきた。

彼はオーダーメイドのアルフォンソ・シルカのスーツをさらりと着こなしていた。

「行貞会長、こちらが老舗企業の後継として躍進中の若手社長、浜名君です」

浜名と呼ばれた男性は微笑むと差し出された手を握り返した。

「まだ若いのに有望な男だ、いくつだい?」

「35です」

「いい歳だ、君はもう結婚はしているのかね?」

「いいえ、まだ未熟者ですし、父から受け継いだ仕事の方を軌道に乗せたいので」

ワインを片手にそれを聞いた行貞は、ははっと大きく笑った。

「うんうん、良いことだ。女なんぞ誘わずとも君の容姿なら寄ってくるだろう、まあ若い頃は遊ぶことも勉強さ」

ぽんと肩を叩かれ去っていく。ふっと側にいた男に笑いかけると、少しお手洗いにと告げ会場を後にした。