ダンスにはいろんな種類がある。クラシックバレエ、ジャズダンス、ヒップホップ、ロックダンス、タップダンスにブレイクダンス、そして私が好きなコンテンポラリーダンスだ。
コンテンポラリーダンスは、枠に囚われず音楽も時には使わず、その時のインスピレーションを身体ひとつで表現する。正解なんてどこにもない、そこが私がとても好きなところだった。
前回:Insomnia Memories vol.2~泣きながら夜の公園で踊る彼女と、自称詩人の少し変なイケメン男性。彼らの不思議なセッションが始まる~
はじめから読む:Insomnia Memories vol.1~ダンサー志望の家出娘、ひょんなことから家から追い出されて辿り着いた真夜中の公園、一人踊る彼女の前に現れた謎の男とは?~
私が昔見た、ダンサーの一人は無音で真っ白なドレスをはためかせ15分もの間、シンプルなスポットライトに照らされ、舞台上で真っ白な残像となって踊り続けた。
心を震わせられるダンサーになりたくて、そしてあの人との約束を守りたくて。
『蘭のダンスはとっても人の心を震わせるんだから、誰に何を言われても踊り続けて欲しい』
10年前のあの日から私は踊り続けた、腕を痛めても腰が悲鳴をあげても、足を挫いても私はただ踊った。
コンテンポラリーダンスだけではなく、様々なジャンルのダンスも習得した。
オーディションにも参加して小さな舞台にはいくつか参加させてもらったが、大舞台のダンサーとして舞台に立ったことはまだ一度もない。
今日もまたダメだった。沢山のダンサー男女が並ぶ中で審査員に呼ばれた番号の中に私はいなかった。
スポーツバックの中からドリンクを飲んで、タオルで汗を拭うと誰かが近寄ってきた。
「蘭、今日家こない?」
誘ってきたのは、一度セフレになった3つ年上の今日合格したダンサー仲間だった。
彼にとって私はとてもよい「抱き心地」だったらしい。
「な、いいだろ?今日暇だろ?」
私は肩に乗せられた手を払い除け
「ごめん、今日はパス」
とだけ言うと、カバンを持ちオーディション会場を後にした。
◆
電車に乗り、名古屋駅で下車する。疲れた足取りで向かった先は駅前の超高級ホテル。
慣れた足取りでフロントへ向かうと、従業員が
「章魚様でございますね、お帰りなさいませ。すぐお部屋のご準備をいたしますのでお待ちくださいませ」
とだけ告げた。私は妙に広いラウンジで深く椅子に座り込んだ。
すぐベルボーイがやってきて荷物を持ってくれ部屋に案内された。
代金は両親のブラックカードを使った。時折使う「秘密兵器」。
部屋に入り、がちゃりと鍵を閉める。外側のノブに「Do not disturb」のプレートを掛けた。
カーテンを開くと真っ赤に染まる空が見えた。ベッドにカバンを放り投げそのままベッドに身を投げ出した。
気持ちがぐちゃぐちゃだ、ごめん。私、何もできてないよ…。
そのまま、シャワーも浴びずいつしか私は浅い眠りについていた。