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その日はうまく寝付くことができなかった。鈴木から持ちかけられた話がどうの、というよりも、私に鈴木が連絡してきたことや、そばに女性をわざわざ置いていたこと、昔の鈴木とのギャップ等、様々な情報が頭の中で氾濫を起こしていた。
「なんで今さら…」
明日も早いのに眠ることができない状況も相まって、苛立ちなのか焦燥なのかわからない、ごちゃ混ぜの感情が背中を浸してくる。ジワジワと私の身を包み、のまれてしまいそうだ。急いで身体を丸める。
聞きたいことが沢山ある。分からないことがありすぎる。だが、どんな状況であろうと私が守るべきはお客様であり、お店であり、従業員だ。私のお店を選んでくださるお客様には、私のお店を選んでくださる理由がある。そこを裏切ってまで、大きな波にのまれる必要はないのだ。
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元恋人・鈴木の作った“長良川料亭・割烹協同組合”と私が女将を務める料亭のひっそりと、そして熾烈な闘いが始まった。