指定された場所は、私たちが分かれたあの公園の池の前だった。
公園に着くと、あの日と同じように鯉に餌もやらずに池の前で立っている男がいた。
それが鈴木であることはすぐにわかったが、あの日と違うのは、鈴木の横にスラッとした
女性が立っていたことだ。
はじめから読む:きっとこの先は。vol.1~この夜を迎えるまでは~
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「お久しぶりです。驚いてもらえましたか?」
「…えぇ」
「よかった」
柔らかく微笑むその顔は、内側にあるものを柔軟に守るための壁に見えた。笑顔ではあるが
笑っている顔でしかなく、そこに感情を見ることが出来ない。
「貴方も気付いていたのね」
「というか、貴女がいるとわかったから予約したんですよ、お店」
自分の秘めた想いは歌でしか伝えられなかった男とは思えないほど、スラスラと言葉が出てくる。もしかすると、今も胸の奥を曝け出さないために、表情も声色も変えずに淡々と喋っているだけなのかもしれないが。
「私と別れてから、随分と良いところで育ったのね。マナーがしっかりしてるじゃない」
「ありがとう。僕も何とか頑張ってきた甲斐があります」
「…何しにきたの?見せつけ?」
鈴木の表情は揺らがない。辺りは黄昏時で昼間よりも少し時間がゆっくり流れているからだろうか。ほんの数秒が、いつまでも続く時間のように思えて冷や汗をかく。
「すみません。ご紹介が遅れました。この方は、貴女と同じく長良川沿いで割烹を営む桜井さんです」