NOVEL

彼女がいても関係ない vol.7 ~ボイコット~

「・・削除したの」

やっと聞き取れるようなか細い声で礼子が答える。

「まさかメールをですか?」

なぜそんなこと、と言いかけてひとみは礼子の算段に気付いた。

 

無理難題を佐智子に押し付け、すべての責任を彼女に負わせるつもりだったのだろう。万が一にもひとみや他の社員が手助けしないように、自分のパソコンからもデータを削除する念の入れ様は何としても佐智子を排除したいという執念が感じられた。

しかし結局はそのことが礼子の足元を更に危うくしている。

 

「石井部長にお願いしてリストを・・」

「そんなことできないわよ!」

「でも、そうしないと・・」

いつも冷静な礼子が声を荒げているのをみて、周りの人間が集まってくる。

 

「どうしたの?」

「それが、礼子さん・・」

いつの間にか佐智子の話を通り過ぎて、礼子が失態を犯したことばかりが広まっていく。

 

(いい気味。人のこと半人前なんて言っておいて)

乃亜は心の中でほくそ笑む。食堂で突きつけられた言葉がまだ棘の様に突き刺っている。

 

(・・失敗して、いなくなっちゃえ)

百合子も面白がりつつ、成り行きを見守っている。ひとみだけが業務上の差し障りを考え、ため息を吐いた。

 

プルルルルル!

 

その時、礼子の机の内線電話が音を立てた。

“総務部 石井部長”の名前がディスプレイに表示されている。

 

青ざめた顔で礼子は受話器に手を伸ばすしかなかった。

 

 

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 無理難題を佐智子に押し付け、すべての責任を彼女に負わせるつもりだった礼子。だが佐智子は期日の金曜日になっても姿を現さなかった。結局、礼子が責任を取ることになるのだろうか?礼子の運命は一体・・・!?