NOVEL

彼女がいても関係ない vol.7 ~ボイコット~

「どうかしたの?」

 

営業から戻った城島がひとみに声を掛ける。言葉を詰まらせたひとみの代わりに百合子が小声で囁いた。

 

「三村さんが昨日から出てこなくて。山村さん、彼女に大事な仕事を任せていたみたいなんです」

「創業記念パーティーの準備の件みたいですよ」

 

横から乃亜が補足する。

 

「それは・・大変だな」

「そもそも派遣社員に任せるからですよ。ねぇ?」

 

百合子が乃亜やひとみに同意を求めるように意地悪く囁いた。ひとみはそれには答えず、礼子の背中をただ見つめていた。

 

 

●ワインの香り

一昨日の夜。マドリッドホテルの最上階にある“Blue Sky”で偶然、礼子と佐智子は顔を合わせた。同席したのは佐智子の連れが来るまでの数分だったが、礼子の神経を逆なでするには十分な時間だった。

 

「お客様、お連れ様がいらっしゃいました」

 

桐生とワイン談義を交わしていた佐智子の耳元でギャルソンが告げる。視線を上げて佐智子が微笑んだ。

 

「海斗、こっちよ」

 

長身で甘いマスクの男性が近づいて佐智子に軽く口付ける。

 

「ごめんね、遅れて」

「お仕事、お疲れ様。大丈夫よ、知り合いが居たから」

 「連れがお邪魔しました」

 

海斗と呼ばれた男性が桐生と礼子に丁寧に頭を下げる。姿勢を正した姿を見て礼子は小さな声を上げた。

 

(・・あ!)

「これは奇遇ですね。三村さんのお連れがあなたとは」

 

礼子より先に桐生が驚いたように声をあげる。

 

「ああ、こちらこそ。先日はありがとうございました」

相手は今、テレビでもよく見かけるIT企業の代表であり、雑誌モデルでもある伊集院海斗だった。

 

「お知り合い?」

佐智子が海斗に甘えたような声で尋ねる。

「うん、この前パーティーでちょっとね」