NOVEL

彼女がいても関係ない vol.6 ~仕掛ける手~

 

「私がというよりも皆が困っていて。つまり誰もが自分の分担で手がいっぱいの時に、楽をしようとする人がいて・・。どうしたら良いか困っているんです」

礼子はいつもの尖った口調ではなく、弱々しい声でそう告げる。

 

「確かにそれは困りますね」

抑揚のない声から桐生の真意は汲み取れない。礼子は視線を落としたまま言葉を続ける。

 

「・・はい、皆から相談されて私も困ってしまって・・」

手にしていたワイングラスをテーブルの上に置くと、軽く腕組みをして桐生が礼子に訊ねた。

 

「その人は、全く仕事をしないのかな?」

「いえ、全くというわけではなくて。男性社員が見ているところでだけ、するというか・・いつもは私も仕事ぶりをチェックしているので、抜けたところは黙ってカバーしているのですけれど。忙しいとなかなか手が回らなくて・・」

 

そう言って礼子は視線を上げて桐生の顔色を窺った。

 

「それは大変ですね」

「こんなこと、お耳に入れるべきか悩んだんですけれど。やっぱり派遣・・」

 

言いかけて礼子は、はっとしたように口を指先で塞いだ。

 

「ん?派遣社員さんの話なの?」

「あ、いえ。」

 

慌てて礼子は首を振る。まるでうっかり失言してしまった、という体を装おう。

 

「君のところの派遣社員さんは確か・・」

桐生がその名前を口にする寸前、頭上から鈴が転がるような声が響いた。

 

「あれ、礼子さんじゃないですかぁ?」

 

声の方へ顔を向けると、そこには三村佐智子の華やかな笑顔があった。

 

 

●2度目のゴング

薄いオーガンジーが重なり合った淡い藤色のワンピースが佐智子の白い肌をより際立たせている。

佐智子は対面に座る桐生に軽く会釈をして礼子に向かって言葉を続ける。

 

「桐生部長とご一緒なんですね」

「三村さんは待ち合わせですか?」

 

桐生は何事もなかったように微笑んだ。ギャルソンに案内される佐智子に連れはいない。