NOVEL

彼女がいても関係ない vol.6 ~仕掛ける手~

桐生と食事に行くことに成功した礼子。

だが、食事中に意外な人物が・・・?

 


前回:彼女がいても関係ない vol.5 ~戦いのコング~

 

●仕掛ける手

 

「じゃ、乾杯」

 

注がれた白ワインを口に運ぶ。2本、用意されたワインの内、どちらが良いかと訊ねられ礼子は白を選んだ。

“シャトー・オーブリオン・ブラン”。

高級な品であることはソムリエの態度から感じ取れる。

礼子は特に白が好きという訳ではない。そもそもワインを嗜む習慣がない。“肉料理には赤、魚介には白”という通説通り、選んだに過ぎなかった。

 

「いかがですか?」

そうソムリエに訊かれても特に感想の出ない自分にため息が出そうになる。

 

「さ、食べて」

テーブルには桐生がオーダーした料理が運ばれてきていた。「気軽に」と桐生はコースではなくアラカルトをオーダーした。恐らくは店のお勧めの品がテーブルの上に並べられている。

 

フランス料理はコースなら外側に置かれたカトラリーから順に使う、ということは知っている。けれど目の前の料理はコースではなく、整然としたルールが存在しない。本来なら前菜から始まって、スープやメインへと流れていくだろう。しかしアラカルトには、決まり切った型がない。例えば目の前にあるエルカルゴをどのフォークで食すべきなのかさえ分からない。礼子はワインを口に運びながら頭の中で思案していた。

 

「フランス料理は苦手だった?」

なかなか手を出そうとしない礼子を見て、桐生が訊ねる。

 

「あ、いえ。あまり食欲がなくて」

それ以外に答えようがなく礼子は言い淀む。

 

「和食の方がよかったかな」

桐生は笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

「相談があるのでしたね、確か」

そう切り出した桐生の視線が鋭くなった気がした。

 

「・・はい」

本当ならもう少し親密な雰囲気になってから話したいと思っていた礼子にとってベストなタイミングではなかったけれど、はぐらかすのも難しい。

 

「・・実は」

少し視線を落としながら、礼子はそう切り出した。