「…娘さんとは、最近会われてないんですか?」
「いや、たまに会ってます。でも、引き取りたいという申し出には、一向に頭を縦に振ってくれないのですよ。…何を書いたらいいのか。」
その表情は、しっかりと父親の顔になっていた。
『両親共に、不器用なんだなぁ…』
佐伯は少し微笑ましく思った。
互いに娘を思う親の気持ちはあるのに、その伝え方が下手な両親なのだろう。
「ガーベラには、感謝、神秘、希望という前向きな花言葉があります。この花束は、感謝と神秘と希望という意味をもっているので、『有難う』と書けば伝わるのではないでしょうか?」
我ながら、差し出がましい事を口にしたと思い、梶の顔色を窺(うかが)う。
「そうだな…まだ、言ってなかった。」
梶の手が、短い一行をかき上げた。
【奈緒へ。生まれてくれてありがとう!】
佐伯は、胸が掴まれるような気がした。
自分には解らない、親の愛情を見せつけられた気がした。
「あの…梶さん。皆沢さんのご両親は、佳代さんの事をどう思われておられるんですか?あんな事件を起こして、会社に損害を与えて…。」
「いや。そんな理由だったら、私も引き受けないよ。佳代さんにしっかりと、歩んで欲しいから動いているんです。あなたがどうのではなく、彼女の心はまだ未熟なので。」
佐伯は穏やかだった。
そして、ガーベラの花束を見て『綺麗だな。有難う。』と言って店を出て行った。
その言葉だけで、十分に佐伯の心を揺れ動かすことができると踏んでいたのか、心からそれ以上言えなかったのか…解らない。
それでも、佐伯は…。
ただ、茫然と店内を見まわすことしかできなかった。
「…せっかく、新しく仕入れたばかりなのに…なぁ。そろそろ、切り花の寿命かな。今度は、植木も取り扱おうかなぁ…。根を張れる土地で。」
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リナの元夫に出会ってから閉店の覚悟を決めた佐伯。 店に顔を出さないリナと佐伯の関係はいかに・・・!?