リナの元夫に出会ってから閉店の覚悟を決めた佐伯。
店に顔を出さないリナと佐伯の関係はいかに・・・!?
~ラナンキュラス~
色彩豊かな花は永遠にその姿を保つことはないからこそ、美しい。
散りゆく定めでも、何度も咲き誇り、姿を変え、意識を変えていく。
大切な人が、幸福に晴れやかに光輝を放つことを…。
それが、終わりの始まり。
錦三丁目に店をオープンさせてもうすぐ2年。
短いようで長かった時間を、佐伯は数少なくなった花を眺めながら感慨に耽(ふけ)っていた。
「何処か行く場所は決まったのかい?」
いつもと同じように、タバコを吸いながら仲井に問われる。
「さぁ…まだ決めてないです。」
仲井は呆れたように、ため息をついてみせた。
「名古屋から出たことがないので。当分は、色んな所を巡ってみようかと思っています。」
現在、仲井が可愛がっているキャバ嬢の為に花束を作りながら、佐伯は達観した気持ちで答える。
この先の事なんて、今は考えられる余裕はなかった。
「最近、あの親子は来てないのか?」
「ああ、リナさんと奈緒ちゃんですか?そうですね。奈緒ちゃんも来てないですね。」
「知らせないで良いのか?」
佐伯は最後のリボンをハサミで切り落とした。
顧客には、閉店の知らせのはがきを出している。リナが勤めているラウンジのしょーこママにも郵送済みなので、リナも知っているだろう。
奈緒から話は聞いているだろうが、閉店の覚悟を決めた理由が、リナの元夫だったことまではきっと知らないはずだ。
それでも、顔を出さないのなら、それでも仕方がないと思えた。
「花屋は沢山ありますからね。」
リナはホストを毛嫌いしていた。
つまり、リナからすれば、佐伯を刺してしまった彼女の気持ちの方が、身近に感じるだろうことは容易に想像ができる。
佐伯が知らなかった、親の愛情を体感させてもらえただけでも十分だと思っていた。
「俺はな、おまえさん自身も…自分を許して欲しいと思っているんだよ。そんな日が来ることを、祈ってるよ。」
仲井はそう告げると、大きな茶封筒をカウンターに置いて「選別だ!」と言い残し、出来上がった花束を片手に店を出て行った。
「有難うございました。お元気で!」
仲井は頭上に花束をかざしただけで、振り返りはしなかった。