それから、数日後。
佐伯はしょーこママを訪ねて昼のラウンジ『RedROSE』に訪れていた。趣のある店内の絨毯は赤く、席数もあって広い。
「ごめんなさいね!わざわざ足を運ばせてしまって…」
「いいえ。大丈夫です。」
佐伯の手には、茶封筒に入れた請求書が入っている。これを届けるというよりは、伝えないといけないことがある。気が滅入りそうで、手汗が酷い。
「早く暖かくならないかしら。」
佐伯の前に、ホットコーヒーが置かれる。
仕事前でも、年齢を感じさせない透明感があった。
本物の美魔女とは、すっぴんの美しさを魅せつけられて、高揚させられるものだ。
ママに見惚れているのは、現実逃避に近かった。
「受け取って、貰えなかったのよね?」
「…息子さんには会えたんですけど…」
「そうでしょうね。あの人から連絡があったわ。余計な事をするなって…。久々に連絡してきて、酷い話よね。佐伯さんにも悪い事をしたわ。ごめんなさい。」
しょーこママは清々しく微笑んでいた。
「あの子は元気そうだった?」
「はい」
『何を今更!そんな女、関係ないです!子供を売り飛ばせるような女を、俺は選んだりしないんで!』
息子の叫びを、伝える事は出来ない。
伝えない方がいいこともある。
「そう。それなら…いいの。幸せなら、それで…」
夜に咲く赤い薔薇は、昼にはその色を店に預けて白い薔薇として、ひっそりと咲いているのだろう。
人の色は、それぞれ違う。
魅せる相手によって、その空間によって、時間によって違う。