NOVEL

錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.7 ~いつもあなたを想っています~

 

「ああ、あの。実は…ここだけの話にして欲しいのですけど…」

「もちろん!」

 

夜の街の口は軽い。人の噂は、色んな意味で生命を危ぶむものだ。

その暗黙の了解を守れなければ、この地に店を開くことは出来ない。その覚悟を伝えるように、佐伯はまじめな表情で答えた。

 

「そうね。あなたなら、任せられるかもね。実は…息子がね、結婚するらしいのよ。それで、花のスタンドを贈って欲しくて。でも、あの…式場に直接届けて欲しいの。私からって分からないように…」

 

三者三様の想いが喉に引っかかるが、吐露せずに飲み込む。

息子が居る事。息子にバレないように贈りたい願い。その、切ない…思い。

 

「分かりました」

 

佐伯はそう答えると、しょーこママにホテルウエディング会場と日程を記載されたメモを渡された。

 

「どんな、お花が良いかしらね…」

 

オーダーで作っていた、誕生日スタンドの派手な陳列を見ながら、しょーこママが呟く。

 

「そうですね…。僕なら、白薔薇を選びますね。24本の白薔薇をメインにして…アレンジします。」

「24本?」

「〝いつも、あなたを想っています″です。」

「24本で、大きなスタンドできるの?」

「ええ。中央に白薔薇を集めて、葉やカスミソウなどを使い、白と緑のアレンジにします。純白の結婚式にはきっと似合うと思います。」

 

しょーこママは自身に纏(まと)った色香を抑えるように、髪をかき上げて苦笑いを浮かべた。

 

「白薔薇なら…88本でもいいわね。」

 

それだけを言い残すと、客を待たせているからリナの酔いが冷めるまで、休ませてくれてと告げて出て行く。

 

『88本の白薔薇。意味は…謝罪。』

 

 

リナは酔いに任せ、しょーこママの話を始めた。

バブル期に〝名古屋の赤い薔薇″と名高かった。人生の半分以上を、夜の街で過ごしたママだったが、リナが勤めるラウンジ『RedROSE』を開店させる直前に恋を知った。

色んな男たちを手玉に取ってきた女が、初めて真剣に恋に落ちたのは、20代後半に差し掛かった頃。相手はビル管理する不動産会社の若手社長だったが、既婚者だった。