「でも、こんなに遅くなって、奈緒ちゃんたちは大丈夫なんですか?」
「あの子は、しっかりしてるから…弟の裕也の事も保育所に迎えに行ってくれるし、世話もしてくれるから」
「そういえば、聞いたことなかったですけど…お一人なんですね」
「そうですけど…何か?」
「いいえ。僕も片親育ちなので、大変だろうことは解りますから」
リナは強気な態度を一変させ、申し訳なさそうに目を伏せた。
リナも佐伯も自分の事を多くは語らってない。
必要ないと思っていたからだ。
しかし、店内から、まだ鼻を啜る音が響いていたため、リナから口を開いた。
「嘘…。今日は、早く帰らなくても良い日なんだよね…」
リナはカウンターに寄りかかるようにして、苦笑いを浮かべた。
「元旦那の家に…奈緒は遊びに行ってる。裕也は実家の母さんが見てくれてる。」
リナは悔しそうに語尾を強めた。
〝自分はいい親に成れなかった…″
結婚したのはまだ20歳の時で、デキちゃった結婚で長くは続かなかった。
元夫は、10歳年上の会社員で、合コンで知り合い、成り行きで身体の関係を持って、妊娠してしまった。
「〝けじめはつける″ってさぁ…カッコつけて言うけど…。男女間のけじめって何だろうね。私はそれを結婚だと信じたけど、彼はあくまでも自分の遺伝子を持つ子への金銭でしかなくて…」
リナは、ウッド調の床を見つめていた。