NOVEL

錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.6 ~昔の自分~

 

「でも、こんなに遅くなって、奈緒ちゃんたちは大丈夫なんですか?」

「あの子は、しっかりしてるから…弟の裕也の事も保育所に迎えに行ってくれるし、世話もしてくれるから」

「そういえば、聞いたことなかったですけど…お一人なんですね」

「そうですけど…何か?」

「いいえ。僕も片親育ちなので、大変だろうことは解りますから」

 

リナは強気な態度を一変させ、申し訳なさそうに目を伏せた。

 

リナも佐伯も自分の事を多くは語らってない。

必要ないと思っていたからだ。

しかし、店内から、まだ鼻を啜る音が響いていたため、リナから口を開いた。

 

「嘘…。今日は、早く帰らなくても良い日なんだよね…」

 

リナはカウンターに寄りかかるようにして、苦笑いを浮かべた。

 

「元旦那の家に…奈緒は遊びに行ってる。裕也は実家の母さんが見てくれてる。」

 

リナは悔しそうに語尾を強めた。

 

〝自分はいい親に成れなかった…″

 

結婚したのはまだ20歳の時で、デキちゃった結婚で長くは続かなかった。

元夫は、10歳年上の会社員で、合コンで知り合い、成り行きで身体の関係を持って、妊娠してしまった。

 

「〝けじめはつける″ってさぁ…カッコつけて言うけど…。男女間のけじめって何だろうね。私はそれを結婚だと信じたけど、彼はあくまでも自分の遺伝子を持つ子への金銭でしかなくて…」

 

リナは、ウッド調の床を見つめていた。