NOVEL

絶対美脚を持つ女 vol.4~不審な男の正体~

「なんの仕事してるの?」

見ず知らずの、人の脚ばかり眺めるどちらかというと不審な部類に入る顔だけ美しい男にそう聞かれ、ナルミはどう答えようか逡巡していた。

 


前回▶絶対美脚を持つ女 vol.3~強引な出会い~

はじめから読む▶絶対美脚を持つ女 vol.1~夢を語る女~

 

東京までの2時間はやや長いが、無視をするのも一定のストレスがかかる。

 

これが見るからにお金や地位を持っていそうな男であれば、仲良く会話して人脈の一つに繋げようと思う。しかし、この若い男は黒のキャップに白のパーカー、ゆるめのスラックスにスニーカーという出で立ちだ。

 

人を見た目で判断してはいけないと学校で教えられたが、しかし身に着ける服、小物、靴は特にそうだが、それらはその人物の持つ資産価値を示すものであることも事実だ。

 

例えば、不動産会社で仕事をしていた頃。

よれよれのTシャツ姿で現れた客をほとんどの営業担当は敬遠した。

特に、ナルミのいた会社は担当客が高い物件を契約すればするほど評価され、給料のインセンティブ部分に相当な差が出た。事務員だったナルミには関係のない話だったが、営業職の人間はそういう意味でいつもライバル関係にあり、営業中の店舗はピリピリとした緊張感があった。気の弱いタイプにはとても務まらない職場だった。

 

そんな店にふらりとTシャツ姿やパーカーで現れた客は、大抵「負けクジ」だとされ、客の押し付け合いが始まる。

タイミングよくトイレへ姿を消すものもあれば、外回りだと出ていく人もいた。

高級な物件を選ぶ客は、やはりそれ相応の格好をしているものであるから、当たり前といえば当たり前。

休日にリラックスした格好で来店しても、やはりそういった客の服にはシワ一つなく、質の良い生地が使われているのが見るからに分かるものだった。身に着ける時計はロレックスやオメガ、当時のナルミには知りようもない外資系の有名時計だったりする。髪だって爪だって綺麗に整えられていた。

 

そういえば当時、ナルミが雑誌で見かけて一目惚れしたものの、値段を見て事務員の給料では夢だと諦めたブシュロンのセルパンボエムのブルーの時計をしていた女性がいた。

その女性客は、海外でも活躍する有名なグルメライター兼翻訳家だった。

ライターとして記事を書いたという雑誌はもちろんナルミも知る雑誌だったし、翻訳家として執筆した本も調べてみると相当売れているシリーズを担当しているようだった。作品や記事によって気分を変えて仕事をするため東京と福岡、金沢に家を借りており、名古屋でも家を借りたくなり探しにきたと言っていた。

窓口で営業担当と話す内容を、聞き耳を立てながら聞いていたナルミには、その女性の発する文言や発想が異世界のように聞こえたものだった。