ナルミはもう、と軽く口をとがらせ、軽いウェーブのかかった髪を耳にかけた。
組んだ長い脚の上に手を置いて、すっと姿勢を正す。それを見て、神崎が口元を綻ばせるのが見て取れた。
ナルミがそうすると、まるで女優やモデルのように映える姿形をしているのだ。
「いいと思うよ。場所とやり方さえ間違えなければ、ある程度見込みあるんじゃない?」
「それでね、神崎さんに聞きたいのは、どこかにいい物件を知らないかなと思って」
神崎はウィスキーグラスを口に運ぶと、「まぁナルミちゃんがおれを呼びだすのなんて、そういうことくらいだよな」とこだわりなく笑った。
「じゃあさ」
「なに?」
神崎の三白眼の瞳がナルミをじっと捉える。ナルミは負けじと見返した。
「このあと上の部屋一緒に行ってくれるなら」
ナルミは内心呆れた。一方の神崎はナルミの体に触れはしないものの、背もたれへと手を伸ばしてきたので、ナルミはふぃと神崎から顔をそらして前を向いた。
「神崎さんとそういうこと、私しないわよ」
やや冷たい声を出して横目で神崎を睨む。
持っているものは最大限に使うのがナルミの主義ではあるが、決して仕事や夢の実現のために不必要に自分を下げることはしないのがポリシーだった。
均整の取れたスリムな体に、何より長くまっすぐな美しい脚。
街を歩けば、通り過ぎる人はモデルのようなその姿を二度見し振り返る。今のように座っていても人目を惹くその脚は、ナルミの一番の自慢である。
そして、そんなナルミの横に並ぶと、どんな男も普段の三倍は立派に見えるのが不思議だった。
神崎は黒のスカートのスリットから覗くナルミの白い脚を、今度は遠慮なく見つめながらため息をついた。ルブタンの10センチのパンプスを履いた脚は、いつもより殊更美しく流れるような線を描いている。
「ナルミちゃんのそういうところがいいんだけどね」
「けどってなによ」
神崎は「いやいや」とおかしそうに笑う。
ナルミより二つ年上なだけだが、神崎は同世代より貫禄があって昔からどこに行っても物怖じしないタイプだった。
元はナルミが新卒で入社した大手不動産会社の一社員で、ナルミとは同じ店舗の先輩後輩という間柄だったのが、ある日神崎が実家の小さな不動産会社を継ぐことになり、そこからあれよあれよという間に実家の事業を拡大し、今では父親の代わりに代表を務めている。
同じ店舗にいた時も、やたら客に気に入られるし、気難しいオーナーともうまくやっていて、それが逆に不気味でつかみどころのない人物だったが、ナルミも会社を辞めてからは何かと神崎から学ぶことが多い。
本格的に起業しようと思い至ったのも、神崎の影響が多分にあるのだ。