美脚という武器を最大限に利用しながら自分の実力で成功を勝ち取りたい女・ナルミ。
そんな彼女が男に語るある“夢”とは?
ヒルトン1階、ハイドアウェイ3-3のバーカウンター。
ほどよく薄暗い店内だが、まだ19時前とあって人はまばらだ。
ナルミはカウンターに置かれたミモザを手に取り、口に運んだ。
世界一高級なオレンジジュースだと誰かが言っていたが、確かにその通りで、ほどよく鼻に香る甘酸っぱいオレンジにシャンパンの微炭酸が口内に広がる。オレンジ色のグラスを持つナルミの指には、セリーヌのリングが嵌っており、グラスを持つ手はやけにスタイリッシュに映えて見えた。
隣でマッカランのウィスキーをぐびりと飲む神崎に、ナルミは視線をやった。
「それ、美味しい?」
「まぁ美味しいよ。飲む?」
ナルミは静かに首を振った。
「ウィスキーは飲まないから」
アルコールに弱いわけではないが、ナルミはどちらかというとワインやシャンパンを好む。
相手や場所に合わせてビールや日本酒を飲むのも好きだが、昔からウィスキーだけは苦手だった。大学生のころ、自分の適量も分からずにウィスキーをロックであおり、翌日ひどい二日酔いに襲われたことが原因で、それ以降ウィスキーの匂いを嗅ぐだけでも気分が悪くなるのだ。
「ウィスキーよりも、さっきの話の続き」
ナルミが足を組み替えると、隣に座る神崎がそろりと視線をよこすのが分かった。
今にも神崎の手が伸びてきそうになるのを、ナルミはわずかに体をよじることで制止する。
「続きってナルミちゃんの夢の話?」
「そう。神崎さん、私の夢どう思った?」
ナルミはカウンターに肘をついて悩まし気に神崎を見つめた。
「エステにトレーニングスタジオを併設したサロンを持ちたいって話だよな」
「正確には、トレーニングができて、エステも受けられるプライベートサロン」
「その差の何が違うんだかおれにはよく分からんが、とりあえず美を追求したいんだろ?」
「ただの美じゃなくて、健康と美のための完全オリジナルなトータルサロンを女性に提供したいのよ。名古屋以外の人も通いたくなるような、特別なサロン。ちゃんと聞いてくれてた?」