密は珍しく喜んだ顔を見せた。環も、これが最後だと思うと綺麗な笑顔を返せる。
「じゃあ、行ってきます。僕は暫く家を空けるけど、いい子にしてるんだよ」
「うん、わかった」
そう、お互い言葉を交わした。笑顔で手を振って……それで終わり。
ドアが閉まると、環の顔からすっと表情が抜け落ちる。
(お皿を洗って、掃除機をかけて……。全部整えて、それで荷物を詰めよう)
そうして、環は最後の支度を始めた。
家を出る時も名残惜しさはなかった。
「さようなら……。密さん」
そう言って、ドアを閉める。
そのあと、まさかもう一度密と会うことになるなんて、環は予想さえしていなかったのだ――。
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家を出ようとする環を待ち構えていたのは出張に行ったはずの密であった。家に連れ戻されそうになった環はとっさに親友・樹里に電話をする。