環はその後、樹里と合流して、新瑞橋にあるカラオケの個室で話し合うことにした。
人目もあるし、ここならいざとなれば周りに助けを求めることも、通報することも可能だという判断だった。そして、カフェと違って話の内容が周りに聞かれることはない。
はじめから読む:男の裏側 vol.1~地獄の始まりは天国~
泣きはらした目をした環を見て、店員は少しばかり困惑していた。が、あらゆる事情を抱えた人が来店するのだろう、放っておいてくれたのがありがたかった。樹里に連れられ、環は部屋に入る。今のところ密は追ってきていないのが幸いだった。
「ペンダントは、ひとまずしておいた方がいいね」
樹里はそう言った。
環は、外したい気持ちでいっぱいだったが、下手に取って後でひと悶着あると面倒なことになると思ったのは同感だった。
「あと……環。話聞いたけど……。私は、別れるのに賛成だよ」
「うん……」
カラオケ店の安いソファで項垂れる。
今は情けない気持ちで溢れていた。樹里の言うことを最初から聞いていたら、こうはならなかったのに。
それでも樹里は、思うところあるようだったが、優しく話を聞いてくれた。
「環、今は多分、下手に逆らわない方がいいと思うんだ。だって、その旦那さん、何してくるか分からないよ。暴力だって振るわれるかもしれない。そんなの、環が心配だし……。だから、ほとぼり冷めたら戻って、表面上だけおとなしくしとこう。その間、離婚の準備を進めておこうよ。私も手伝うから」
「うん……。うん……」
環は再び大きな涙をこぼした。何でこんなに優しく親身になってくれる樹里に逆らって、あんな男と結婚してしまったんだろう、自分は……。
こくこくと、俯いたまま首を振る事しかできない。
「今日は、とりあえずここに居な?何だったら、私の家に来てもいいよ?だってまだ怖いでしょ」
樹里は心底心配している様子で環のことをうかがっていたが、環はこれ以上樹里を巻き込むのは嫌だと思った。……樹里にまで危険が及ぶのは、絶対に避けたい……。
「ううん……大丈夫。あのね、私、もう少ししたら家に帰るよ」
「え!?本気、環!?」
「だいじょうぶ」
環が気丈に笑みを浮かべると、樹里は少しだけ困ったような顔をして環を見つめた。
ただ、その後でこう呟いた。
「あのね、環。私は環の親友だからね。それは信じて」
環は今度こそ、声を上げて泣いた。