「お前ら…明日には貰われていくのか。」
数日間でも、育て上げた金木犀に愛着が湧き始めている。
花が咲きかけた枝を切ってしまえば、その花たちの寿命は長くはない。
しかし、もともと金木犀の花は、咲いてから一週間が寿命だとされている。
綺麗にアレンジを施してやり、記憶に残る存在にしてやりたいとは思えた。
少し感慨に耽っていた時だった。
「すみません…」
リナが姿を現した。
「いらっしゃいませ」
佐伯は微笑んで迎え入れる。
落とし物を取りに来たことを承知していたので、彼女を煙たがる理由はなかった。
「これですか?」
佐伯は赤ん坊の遊具を取り出した。
リナは口を一文字に結んで、頭を下げた。
その全てが隙だらけで、何処か放っておけない気持ちにさせるのは、彼女の持ち得ている天然の魅力だ。
リナは玩具を受け取ると、チラッと金木犀の方に視線を送った。
「…良い香り…」
「金木犀は好きですか?」
「え…ええ。私、こう見えてアロマセラピストの資格を持ってて…」
「へぇ。それは凄いですね。」
意外な経歴に素直に驚く気持ちと共に、こんな理由でリナから話してくれた事に、金木犀に感謝したい気持ちになった。
「金木犀にはストレス解消効果もあるんで。あと…ダイエット効果も!」
リナの口が軽くなっているのは、少なくとも金木犀のおかげだ。
佐伯は、この金木犀で花束を依頼されている旨をリナにも伝えた。
リナは『そんな依頼も受けるんですか?』と純粋に驚いていたが、佐伯は『望まれて、可能ならやりたいと思う』と答えると、リナは神妙な表情を浮かべていた。
「それ…その花束が出来たら、見たいです…。」
「はい!明後日には出来上がっている予定なので、是非来てください。」
そんな些細な約束を交わして、リナは仕事に向かっていった。