NOVEL

錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.4 ~誘惑の多い町にある真実~

ある日、フラワーショップ「ラナンキュラス」の店内に一本の電話が鳴り響いた。

しかし、それは常識外れな注文であった。


 前回:錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.3 ~あなたと一緒なら心がやわらぐ…~

~金木犀~

『謙虚で気高い』その花は、人の心を癒し『真実』に導く香りを放つ。

しかし時に、それを『誘惑』と思い『陶酔』することもある。

何が『真実』なのかは謎のまま…錦三丁目には残り香が漂う。

フラワーショップ【ラナンキュラス】をオープンさせていると、店の電話が鳴り響いた。

こんな小さな店でも、それなりには注文が入る。

大体はリピーターが多く、古い固定電話には顧客登録をしていたが、それは知らない携帯電話からの着信だった。

 

「お電話有難うございます。フラワーショップ【ラナンキュラス】です。」

 滅多にないが、一応は広告をウェブに掲載しているので、なんの不信感も抱かずに佐伯は電話を取り上げた。

 

『…』

 無音が続く。

 

―いたずら電話か…?―

 

佐伯は静かに「もしもし?」と繰り返すと、小さく唾を飲み込む音が聞こえてから返答があった。

 『あのう…金木犀で…花束をお願いすることは可能でしょうか?』

 

―キンモクセイ?―

 

秋になると何処かしこからほのかに漂ってくる、誰からも好まれるあの有名な金木犀の事を言っているのだろうか?

 

しかし、それは常識外れな注文である。

金木犀は文字通り樹木だ。

そもそも花束にするような花ではない。

 

「無理…ですかね…」

 こそっと言う相手の声から察するに、この問い合わせが初めてではなく、他にも問い合わせて断られたような諦めに近い声色に聞こえた。

 

「いや…あのう、無理ではないですが、お時間はいただく事になるかと思います。

金木犀の時期でもないので仕入れ問題もありますし、切り花ではないので、咲く前の鉢植えを入荷して、こちらで育てて、満開になる前に摘んで花束にすることは可能ではありますが…」

 佐伯は一通り説明をした後に、脳内でそろばんを弾いていた。