思惑が交錯するそれぞれの休日。だが後輩女子社員がデート中、衝撃の光景を目撃する…!!
前回: 彼女がいても関係ない vol.1 ~新しい風が吹く前に~
●山村礼子の緩やかな午後
「山村様、ご用意が整いました。こちらへどうぞ」
土曜日の午後。栄駅前ビルにあるエステサロンで、礼子はいつもの施術を受けていた。フェイシャルとデコルテのトリートメント。
このサロンに通い始めて2年になる。
「お仕事はお忙しいですか?お肌が少し疲れていらっしゃるようですね」
担当の藤田佳世がいつものように施術しながら話しかける。
「まあ、いろいろとね。仕事のできない子がいて大変よ」
礼子は目を閉じたまま、昨日のことを思い返していた。
島坂が派遣社員の三村佐智子をランチタイムに誘い出したことだ。
ひとみと城島の話を聞いた時も愉快ではなかったけれど、島坂が佐智子を誘った時ほどではなかった。
(なんであんな子)
ランチタイムをずらしたのがいけなかったのか。いや、それは問題ではないだろう。昼当番を変えたところで、絶対に二人の接点がないとは言えない。
佐智子は自分のことを何か話しただろうか。
冷たくされているとか、厳しいとか。
ランチタイムから帰って来た際、島坂がチラッとこちらを見た気がする。
あれは非難だろうか。佐智子を虐(いじ)めているように思ったのだろうか。
実際、自分の態度が佐智子にキツイことは自覚している。
女子社員の中でも年長者であるから、仕事は自分が回さないと、という気持ちもあって、どうしても厳しくなる。
いや、それは言い訳だ。正社員に比べ、自由のきく派遣社員は自分より若いことが多く男性社員が色めき立つ。責任も少ないのに、持てはやされることが面白くなかった。
普段は目を瞑って気づかないでいる自分の中の嫉妬に気付いて、礼子は憂鬱な気分になる。
「今日はラベンダーになさいますか?」
不意に佳代の声がした。
マッサージに使うオイルの香りを尋ねられ、礼子は息を吐いて答える。
「・・そうね、リラックスできるのが良いわ」
「畏まりました。ではこちらでご用意いたしますね」
暖かいタオルで顔を覆われ、心地よさに礼子は瞳を閉じた。
●ひとみの午後
時計の針が2時40分を指した時、カランと来客を知らせる鐘が響いた。
ひとみは入り口に視線を向ける。入って来たのは待ち人ではなかった。
約束の時間はとっくに過ぎている。
(カフェで待ち合わせたのは正解ね)とひとみはため息を吐く。
待ち合わせているのは付き合っている城島だ。
彼が遅刻してくるのはこれが初めてではない。
城島は仕事でもそうだが時間にルーズなところがある。
ただうっかり遅れる、というより優先順位が変わるのだろう。
例えば道を急いでいてもふと気になる品を見かけたら、そちらを優先してしまう。相手を待たせていようがお構い無しだ。
結果、遅刻して言い訳をする羽目になるのだが、一向に治る気配はない。
仕事相手からも遠回しに苦情があるが、どこ吹く風で聞き流している。
大手の営業先だけは遅刻することがないから、相手によって使い分けているのだろう。
半年も付き合うとその辺りがはっきり見えてくる。
(つまりは、優先順位が下ってことね、私は・・)
そんな風に思いながら、実のところ傷ついていない自分にひとみは気づいている。学生時代から誰と付き合っても、のめり込むということがない。いつも一歩引いたところから自分を見ている気がする。
恋愛というもの自体に向いていないのかも知れない。そんなことを考えながら、それでもこうして時間を無駄に費やすことは好ましくはない、と思う。
(そろそろ、潮時かしら)
冷めた紅茶を口に運びながら、ぼんやりとそんなことを思っていた。