NOVEL

彼女がいても関係ない  vol.2 ~それぞれの休日~

 

●百合子の駆け引き

 

「もう行かないと」

ベッドに潜り込む百合子の肩を軽く叩くと、城島は起き上がった。

「えー、今日はドライブに行こうって」

百合子が頰をワザとらしく膨らませて上目遣いに城島を見上げる。

「ダメだって。今日は約束があるんだから」

シャツを羽織りながら城島が答える。

「ひとみさんとデートですか?」

その言葉に振り向きながら、城島が真顔で言う。

 

「分かっているよね?俺、ひとみと別れる気ないから」

「分かっていますよ、ちゃんと」

クスクス笑いながら百合子は城島の方を向く。

 

 

 

 

 

二人が夜を過ごす関係になったのは、京都でばったり会ったあと。

仕事終わりにエレベーターで一緒になった城島を百合子が誘ったのだ。

食事だけのはずが、百合子の部屋で飲み直すことになり自ずとそういう雰囲気になった。

 

「前から良いな、って思ってたんです。城島さんのこと」

上目遣いに隣に寄り添われ、城島はつい魔が差した。

もともと貞操観念の低い男ではあるけれど、同僚に手を広げるつもりはなかった。とは言え、百合子の誘いを断る自制心を持ち合わせてもいなかったわけだ。

 

その夜から何度となく、関係をもっている。もちろんひとみには秘密だ。

「2番目で良いんです、私。でもあんまり冷たいとお喋りになっちゃうかも」

その言葉に城島は百合子を軽く睨みつける。

 

「うそうそ。うそですよ。だからまた、来てくださいね」

百合子は用意を整えた城島の頰に両手で抱えて、口付ける。

最初は軽く繰り返すだけの口付けはやがて深くなり、二人の身体はもつれ合って、もう一度ベッドに沈もうとする。

 

♫♪♬〜。携帯のアラームが1時を告げる。

(約束の店でひとみが待っているころだ)

一瞬、城島の脳裏に浮かんだひとみの姿は、百合子の白い肢体に溶けていった。

 

 

●乃亜のアイテム

 

「乃亜ちゃん、どこへ行こうか?」

「ん〜とね、乃亜、美味しいイタリアンが食べたいなぁ」

「了解、じゃあ金城ふ頭まで足を伸ばそうか」

「その前に、ミッドランドスクエアでお買い物!」

「了解」

学生時代からのボーイフレンド、田中真司の運転する車の助手席で川崎乃亜はいつものようにデートコースをねだっていた。

 

ミス金城学院に選ばれただけあって、乃亜はモデル並みのプロポーションと綺麗な顔立ちをしている。制服のスカートでは見えない膝上からの脚線美は見事だと言える。真司の愛車は親に買ってもらった黄色のフェラーリ。車の側に立つ乃亜の姿は人目を引く。

助手席に乗り込み、ふと通りを見ると見知った顔が視界に入る。

 

「あれ・・って」

「どうかした?乃亜ちゃん」

「ううん、なんでもない♪」

乃亜の目に映ったのは、職場の先輩宮本百合子。そしてその横にいたのは城島宏だ。百合子の腰に手を回し、タクシーを呼び止めている姿はとてもただの同僚には見えない。

 

「ふぅん。あの二人・・」

楽しそうに微笑むと乃亜は真司に笑顔を向けて声を上げる。

「なんでもないの!さ、行きましょう!」

何だか面白いことを見つけた子どものように、はしゃいだ乃亜を訝(いぶか)しげに見つめつつ、真司は車をスタートさせた。

 

 

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 新しい人事が発表されたことにより女子社員同士の脆く危い関係が顕わになる。