NOVEL

引きこもり女の裏側 vol.2 ~とある出会い~

 

 

「おまたせー!」

仕事が終わり喫茶店で待っていると、斎藤がやって来た。

隣には男性を連れている。

その顔に見覚えがあった幸枝は、心臓がどくりと脈打ったのを感じた。

「ごめんね、待たせて。」

幸枝の座っているボックス席の前に立ち、慌ただしく男性を奥に座らせる斎藤。

自分も席に着き、飲み物を頼む。

ウエイターが下がったのを見計らって、紹介する。

 

 

 

 

「こちら、塚本公平さん。司法書士してる。」

 「あ、どうも…。」

それ以外の言葉が思い浮かばなくて、幸枝は黙った。

「すみません、仕事終わりに。以前お会いしましたよね。たしか…『Kajiwara』だったかな?覚えていますかね。あのときはありがとうございました。」

「いえいえ、ぜんぜん。」

「塚本ちゃんは、河合さんに一目ぼれしたんだって。」

会話が続かないことを察したのか、斎藤が言う。

「おい、ばか、それ言うなって。」

まだ何か言おうとしている斎藤を、塚本が慌てて制する。

突然のことににわかには信じられず呆然としていた幸枝。

 

「お待たせしました。」

飲みものが運ばれてくる。

斎藤はホットのブラックコーヒー、塚本はアイスカフェオレだ。

しばらく二人の様子を見ていた幸枝だが、冷静になると疑問が頭に浮かんでくる。

「なんで、斎藤さんは塚本さんが一目ぼれしたのがわたしだって知ってるの?二人は知り合い?」

斎藤と塚本は顔を見合わせ、気まずそうに俯く。

 

「怒らないで聞いてね。あの日、初めて河合さんを見たとき、あまりにもタイプだったから、塚本ちゃん写真撮っちゃったんだって。」

「すみません!気分害されましたよね…。声かけたかったんですけど、勇気なくて…。ほんとすみません!」

机におでこがつくほど頭を下げる塚本を見て、気味悪さを覚えながらも悪い気はしなかった。

 

「もういいですよ。頭上げてください。」

「塚本ちゃんはね、わたしの高校時代からの友達なの。」

反省している様子の塚本を見て、話題を変えようとしたのか斎藤がぽつぽつと話し始める。

「ちょくちょく連絡とってたんだけどね。〝めっちゃ可愛い子見つけた!″ってlineがきたときは、びっくりしたよ。」

コーヒーを一口、口に運ぶ。

「塚本ちゃんは悪い人じゃないしさ、二人を知ってるわたしとしては、お節介ながらうまくいってほしいなーとか思ってるんだけど…。どうかな。河合さんさえよければ、一回デートしてみない?」

 

たしかに、顔はかっこいい。

斎藤さんの知り合いなら、悪い人ではないだろう。

平坦な毎日に、刺激があってもいいんじゃないかと思い始めた頃だった。

今がタイミングということなのではなかろうか。

 

「わかりました。デートしましょう。」

幸枝の言葉に、二人の顔が花咲くように明るくなったのは言うまでもない。

 

 

 

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 同僚に紹介された相手とデートをすることになった幸枝。実は幸枝にとって、人生初のデートであった。