「おまたせー!」
仕事が終わり喫茶店で待っていると、斎藤がやって来た。
隣には男性を連れている。
その顔に見覚えがあった幸枝は、心臓がどくりと脈打ったのを感じた。
「ごめんね、待たせて。」
幸枝の座っているボックス席の前に立ち、慌ただしく男性を奥に座らせる斎藤。
自分も席に着き、飲み物を頼む。
ウエイターが下がったのを見計らって、紹介する。
「こちら、塚本公平さん。司法書士してる。」
「あ、どうも…。」
それ以外の言葉が思い浮かばなくて、幸枝は黙った。
「すみません、仕事終わりに。以前お会いしましたよね。たしか…『Kajiwara』だったかな?覚えていますかね。あのときはありがとうございました。」
「いえいえ、ぜんぜん。」
「塚本ちゃんは、河合さんに一目ぼれしたんだって。」
会話が続かないことを察したのか、斎藤が言う。
「おい、ばか、それ言うなって。」
まだ何か言おうとしている斎藤を、塚本が慌てて制する。
突然のことににわかには信じられず呆然としていた幸枝。
「お待たせしました。」
飲みものが運ばれてくる。
斎藤はホットのブラックコーヒー、塚本はアイスカフェオレだ。
しばらく二人の様子を見ていた幸枝だが、冷静になると疑問が頭に浮かんでくる。
「なんで、斎藤さんは塚本さんが一目ぼれしたのがわたしだって知ってるの?二人は知り合い?」
斎藤と塚本は顔を見合わせ、気まずそうに俯く。
「怒らないで聞いてね。あの日、初めて河合さんを見たとき、あまりにもタイプだったから、塚本ちゃん写真撮っちゃったんだって。」
「すみません!気分害されましたよね…。声かけたかったんですけど、勇気なくて…。ほんとすみません!」
机におでこがつくほど頭を下げる塚本を見て、気味悪さを覚えながらも悪い気はしなかった。
「もういいですよ。頭上げてください。」
「塚本ちゃんはね、わたしの高校時代からの友達なの。」
反省している様子の塚本を見て、話題を変えようとしたのか斎藤がぽつぽつと話し始める。
「ちょくちょく連絡とってたんだけどね。〝めっちゃ可愛い子見つけた!″ってlineがきたときは、びっくりしたよ。」
コーヒーを一口、口に運ぶ。
「塚本ちゃんは悪い人じゃないしさ、二人を知ってるわたしとしては、お節介ながらうまくいってほしいなーとか思ってるんだけど…。どうかな。河合さんさえよければ、一回デートしてみない?」
たしかに、顔はかっこいい。
斎藤さんの知り合いなら、悪い人ではないだろう。
平坦な毎日に、刺激があってもいいんじゃないかと思い始めた頃だった。
今がタイミングということなのではなかろうか。
「わかりました。デートしましょう。」
幸枝の言葉に、二人の顔が花咲くように明るくなったのは言うまでもない。
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同僚に紹介された相手とデートをすることになった幸枝。実は幸枝にとって、人生初のデートであった。