NOVEL

勝ち組妻 Vol.5 ~夫婦の閉ざされた悩み~

 

 

***

 

 

家に戻ってきて、着ていた服をすべて脱ぐ。

 つけていたアクセサリーも、履いていたストッキングも。

 

――初めて会った人だったけれど、思ったよりも安心して話せたな。

 

若菜は部屋着に着替えて、いつもの場所に座る。

 ふかふかのソファでも、整理されたダイニングの椅子でもなく、リビングのラグマットの上。

 

そこでお姉さん座りをして、机に突っ伏す。

 この体制が、妙にしっくりくる。

 人に話して、すっきりはしたが。

 

「はあ…。どうするかな…。」

 

京子には言わなかったが、若菜には夫に対する不満があった。

 

 夫は、お金遣いが荒いのだ。

 もともとそうだったわけではないはずだ。

 少なくとも、結婚するまではそうではなかった。

 

海外で勤務を始めて数か月後、送られてきた夫のクレジットカードの利用明細書を見て目を疑った。

 おそらく給料の大半を使っているのではないだろうか、と思った。

 

すぐに電話をしたい気持ちを抑え、夫の仕事が終わる時間を待った。

 

 

翌朝。

 

大事な話なので、ビデオ通話でかける。

 つとめて冷静に状況を説明すると、彼は悪びれる様子もなく言った。

 

「俺も、接待やなんやでいろいろ大変なんだよ。」

 

若菜も、できれば彼の気持ちに寄り添いたかった。

 

――仕事も大変だろうし、毎日の家事や食事も自分でしているんだから、それくらい仕方がないのかな…。

 

でも。

 ちょっとした息抜き、というには頻度も多く、金額も大きすぎる。

 

「月の生活費は渡してるんだから、俺の分のお金は自由に使う。それで十分だろう。」

 

たしかに、毎月の生活費として、20万円は欠かさず若菜の口座に振り込まれていた。

 

ちょっと待って。

 わたしが怒っているのは、そうじゃない。

 

「お金のことは、感謝してる。でも、将来は子供もほしいし、貯金はしておきたいの。そのために、わたしだって働いてるし。」

 

だからあなたも協力して“

 

と言いたい気持ちをこらえる。

 夫のお金で生活している、という事実が、若菜の感情に歯止めをかける。

 

「そのことは、また帰ったときにゆっくり話そう。今は余裕がないんだ。ごめん、切るよ。」

 

一方的に切れた通話に、若菜は置き去りにされる。

 

――帰ったときって、いつよ。

 

夫は本当にストレスが溜まっているのだろう。

 何も考えたくないのかもしれない。

 会えない分、普段の彼の様子もわからない。

 

――心変わりでもされたのかも…。

 

若菜の頭は、悪い妄想でいっぱいだった。

 

 

その日から、目に見えて夫と連絡がとれなくなってきた。

 いつ終わるかもわからない不安が続く日々。

 

――わたし、幸せだよね…。

 

自分に言い聞かせて毎日を過ごしていかなければ、若菜は我を失ってしまいそうだった。

 

 

 

 

次回へ続く・・・

 

next:1月18日更新